『夢ん中』






ずっと前のことは夢のようだというけれど。
実際のところ夢に見てしまったそれは、生々しい記憶だった。

隣に眠る恋人に今ほんとうにすまない、と沖田は思った。
夢の中で土方はずっと泣いていたから。


ずっと沖田を犯しながら、今より若い土方は泣いていたのだ。

「なぜだっ、なぜ」と繰り返すように叫ぶように言いながら。

たやすく男を受け入れることの出来てしまうらしい若い沖田を知って、憎くて叶わぬというふうに、首
さえしめられかけた。
だが、沖田はひたすらにゆすぶられながらその涙を美しいと感じた。何も考えることは出来なかった。





このまま殺されてもいいと夢の中の沖田は思っていた。
それがすまないと、思った。


土方に抱かれたのは、あれが一度きり。


抱きたいのに抱かれているのか、と聞いたら。
違うとこたえた。



知らなかったのだ、どれほど互いが思いあっていたかを。
だが不実はいっしょだったはずなのに。

土方は閉じ込めていたのだろう沖田への想いを。自分さえ、知らぬまに。


だから、あんなふうにしかならなかったのだ。
あのとき恋は終わっても不思議ではなかった。

だが沖田はあっさりと土方を許した。


信じられないものでも見るように沖田を見て、土方はまた涙を零した。
その目はひたすらに赤かった。じっと沖田を睨みつけ、泣き続けた。
今でもこの人はおれが憎いだろうか。


あの頃、土方の情人と通じた挙句ずるずるとなぜか抱かれ続けていたおれが・・・。

土方に無理やりに犯されたあとも、沖田はときたま伊庭と寝た。
なぜかはわからない。

あの腕が心地よかったせいかもしれない。
伊庭の不思議な溜息を思い出す、男はなぜか沖田に優しかった。
いつもやさしかった。
だからなのかもしれない。


泣き続けた土方のために、なぜ伊庭と切れようとは思わなかったのか・・・。
そして土方もそれを知っていただろう。



そっと沖田は情人を引き寄せた。

夢の輪郭は、朝の日差しに静かにとけていった。