約束




そっと、そっと壊れ物をあつかうような、そんな繊細な手つ
きで、あなたが私を抱き寄せている。


子供のじぶんでさえ、あなたはそんなふうに私をだきしめた事
なぞ、ついぞ無かったのに・・・。




静かだ、夜の闇の気配すら。今の私たちには関係ないみた
い。


「泣かないで、土方さん。近藤先生とゆくんでしょう・・・。
なのに、なんで泣いているの? あなたらしくないよ」

 そう言ったらば、にらみつけるみたいな目つきで・・・。あ
、ほんとににらんでるのか。くすりと思わず、笑ってしまった
・・・。



だって、こんなふうに声もたてずにあなたが泣くなんて。
あなたは、とても激しい、赤、赤、あか、紅蓮の焔のように。
はげしい気性の人、ほんとうは・・・・・・。

なのに、そんなふうに静かに泣くんだね。



ただ、あなたの頬をつたう、しずく。
愛しいような、とても綺麗なような。
あなたが、さっきから一言もしゃべらない。

だから、私もただ、そっとその流れ落ちた綺麗なそれに触れ
てみる。


ああ、泣かないで。泣かないで。
そんなふうに、泣かないで。

そう言いたいのに、そう言ってしまうのは。
出来ないや、だってその途端きっと私も泣いてしまうだろうから。


あなたには、私の笑顔だけを残して逝くよ・・・。


「また会えるよ。かならず、私も行くからね、土方さん。近藤
先生を、しっかり支えてあげてくださいね。それとあなたの怒
鳴り声きかないと、わたしも寂し・・い・・・・ん」

ああ、ずるいよ。ずるいよ、あなたの指さきに痛いほどに力が
こもった。
こんなじゃ、しかめっつらになっちゃうってば・・・。


だけど、わたしを抱きしめて声もたてずに泣くあなたが愛しい
から、いっしょうけんめい笑ってみせるよ。


また、会えますよ。私、あなたにウソなんてついたことないで
しょう? ね、土方さん。