月の影   



冬晴れの凍てつく夜。
白銀の世界に、浮かぶ輝く月。

ふいと、居合わせた男・・・。
こんな夜に君と会うなんて。

ぼうと月を見上げる男に、大鳥は声をかけていいものか迷った。


あまりに、侵しがたい風情の白皙。
冴えた風貌。

したが、遠く遠く夜空を見上げるふうは、あまりに無防備だった。


ただ、大鳥の気配を感じたのか土方はふっと、うってかわった風情で、こちらを見た。

「・・・。冷えますな」なんと言ってよいやらわからなかったふうな男は、無難に声をかけてくる。


「土方君、きみも月に誘われたのかね」


「えぇ、こんな明るい夜だ。敵さんも来やせんでしょうし」と、からりと笑った。

「大鳥さんもですか」

「あァ、私は宵っぱりなんでね。しょっちゅう出歩いてる」
まぁ、これは大鳥の言い訳でもある。

夜陰に紛れて、幹部でありながら敵情視察などにもよく出向く男だった、大鳥は。


したが、月のあかるい風情に心誘われ冬の夜、句でもと、今夜は出歩いていて土方に会った。

この邂逅は、偶然か必然か・・・。


土方、箱館ではあまり知られてはいないが繊細な感性を持った男でもあった。


「あぁ、見事な月だ。土方君、きみ・・・。」ふっと、そこで言葉を濁し。

おそらく、一人の時間を邪魔したであろうと、思った大鳥は。


「すまなかった」と素直で直裁な男らしく、だが唐突に謝辞をのべ、挨拶のみで離れようとした。


そんな大鳥を土方は、呼びとめると「大鳥さん、あんたがいてくれて良かった」どんな意味なのか・・・。

大鳥には、計りようも無いが。

土方なりの理由もあるのだろうと、「それは、有難いね」と大鳥は複雑に笑った。

「なぁ、あんたは今夜のオレには救いの神かもしれねぇや」

「ははは、それはいい。じゃあ、本当に失礼するよ」

何がよいのやら、大鳥にもわからぬのだが、土方の言いようがおかしかったので、笑った。




それは奇妙な月の晩だった。