死に月



「俺はね、つよい相手に斬られて死ぬの・・・。アンタでもいいなァ」

沖田はくつくつと笑う、昔は、といってもさして長い付き合いではないのだが、・・・。
こんな闇い声で笑うような男では無かった気がした。


肺を犯す病が、沖田の心までも犯しているようで、はがゆかった。
かつて斎藤一にとって沖田総司はとらえがたい男だった。もっとも斎藤は他人に、
あらゆる意味で興味を持ったりするような人間ではなかったが・・・。
ただ沖田は特別なのだ。
斎藤自身にさえ、わからぬ理由で。
沖田総司という男は穏やかに見えてそうではない、その沖田に己と近しいものを感じた。
人を殺して微笑む男が優しいものか?
ごく、しぜんに、斎藤は沖田に惹かれた。それが恋情だったのだと気付いたのは、
沖田が心まで病んでいこうとしている、今だった。

俺はお前を斬れない、だが、だれにも斬らせたくはない。
沖田、沖田、おきた・・・・・・。


この愛おしさは、どこにいくんだ。教えてくれ、おれは、お前に死んでほしくはない。
深く一途だが、行き場のない想いは、斎藤までも狂わせていくのかもしれぬ。

「愛しい」と一言でも言えたなら、沖田を斬れたことだろう。


どこかで、昔きいた沖田の笑い声が聴こえた気がした。

「斎藤、さいとう・・・・。ふふっ、強いなァ。強い。好きだなぁ、つよい人。おれ」