『納涼床』
屯所移転の際の急ごしらえにも、かかわらず畳をすべて張り替えた。
いぐさの、清々しい薫りに男は私室の気安さで大の字に床に寝転んでいた。
小姓には、誰も火急の用以外は近づけるなと、命じてあった。
しかし・・・。
すっと障子がひらくと、すいと背の高い若者が勝手知ったるというふうに、入ってきた。
すっと土方を見て、若者は花の綻ぶよに微笑んだ。
そして、すぐ近くに寝転ぶと。
手を土方の手にあわせ、握り込む。
愛しげに・・・。
「あぁ、昔みたいだ。」
懐かしげな声音がする、清い青臭い匂いと男のてのひらの熱さに
思わず、土方は涙ぐんだ。
そんな土方の心を知っているのか、知らぬのか・・・。
あたたかい温もりは、なぜか悲しくひたすらに優しいだけだった。
ふいに、込み上げた何かに土方は・・・。
思った。
(あぁ、届かねぇ・・。)
それでも、爽やかな沖田の風情がたまらなく愛しいと思った。