白い月
小さく、ちいさく微笑する男の気配。
かつてはあったはずの烈しさのカケラも無い。ひたすら甘やかな抱擁、そして耳朶を打つやわらかなわらい声。
優しいだけの腕の中、土方はかけそき喘ぎを漏らす・・・。
どこか残酷な夢想と、密やかな愉悦の間で。
土方はその嗜虐に歪む。沖田の心を知りつつ……。燻るよな濃密な気配が、ことさら土方を喜ばせた。
知ってか、知らずか沖田の愛撫はさらに穏やかになっていく。
それが土方をさらに残酷にさせた。
沖田は知っているのだ、知っていて。
もはや愛しいのか憎いのかさえ、土方にはわからない。
甘い甘い睦言、おのが躯をすみずみまで辿る指・・・。
あぁ、沖田の心が壊れてゆく。
それがうれしい、うれしい…。
あれほど、無垢で穢れなかった男、その男を壊した。
土方も笑んだ、やわらかく。
それが全てだ・・・。
もう涙は零れない、土方は自身の瞳から一滴散った何かを知らなかった。
沖田の指が、その何かを掬いあげるまで。
沖田は一瞬だけ、目をひそめた。
だが、次の瞬間たどる指先を年上の男の唇にあてた。
くくくと、土方はとうとう哂った。
沖田は土方を見た、今はじめておのが抱く相手が誰かを、思いだしたように。
その沖田の眼差しは美しかった。
土方は悟った、もう何もかもが終わったと。そしてその刹那、全てを忘れて沖田の唇をむさぼるように強請った。
それでもけしてこの男を離すまいと想いながら……。
例え、そこにはもう何も無くとも。