酒席



「総司、つきあえ」

唐突である。

「珍しいですね、お酒なんて。あんまり呑まないのに」
土方は下戸ではないが、滅法弱い。

なぁに、たまにはおめぇと呑んでみたくなったのさ。
と軽口めいて言う様がやけに洒脱で、つかのま見惚れたを隠すように。沖田は揶揄めいた笑みを口元に乗せた。


さやさやと風の音が物寂しく、あたりに響いていた。


無言で酌み交わしながら、そっと沖田は土方をかすめる視線で盗み見た。

何かあったかな、と沖田は思いつつも。
この人が言わぬならば訊くこともあるまいと、ただ酒を啜った。


京の酒はやわらかい。柔らかく甘い酒は毒のようで。
なんとも不穏な心持ちがする。


ふと土方を見やれば、ほんのりと上気した土方の肌が、いやに艶めいてなまめかしかった。


沖田の懊悩を知ってか知らずか
「きれえな月だなぁ」と一心に月を見上げ無邪気に微笑む横顔があった。

「ええ」

皓々と輝く月があたりを照らしている。


ふいに、月に魅入られたその人をこちらへ向かせたくなって其の手をひいて抱きこんだ。

沖田の耳を微かな笑い声が擽った。
刹那、沖田の背に土方の腕がまわされた。


あまい酒の馨りがくゆるように満ちていた。

「酔っていますね」

また、引寄せた男が静かに笑う気配がした。