木枯らし。(斉藤)2006年11月24日(金) | |
「よおっ、相変わらず仏頂面だなぁ。いい加減うっとおしいぞ」 「いつもこんな顔だ・・・。」 違うってと言いながら本間は、おやというような顔をした。 「うーん、お前。以外と馴れると面白いやつなんだけどなぁ。まぁ山口。あんまし深く考え込むな、お前の後ろだけ寒風吹きすさぶって感じだぞ」 「笑うな、これでも深刻なんだ」 「珍しいなぁ、ほんと。お前感情豊かになってるような」 ………。 「まぁ、素直に直球でいけよ。お前の剣とお前はそう変わんないだからさ」 ほら、落ち込むなってと言いながらばんばんと背を叩かれた。 痛いぞ、本間・・・。 そうだな、落ち込むなんて俺らしくない。 素直に沖田に会って謝ろう。 そう思うとなぜか、晩秋の秋風も温かく感じた。 本間、俺は剣のことしか考えられんような大ばか者かもしれんが、沖田にもお前にも本当に色々なことを教わっているな。 沖田と道場で向き合ったときのことを思いだす・・・。 沖田の剣はまっすぐだった。 まっすぐだった・・・。 ならば、俺もやつにはまっすぐでありたい・・・。 |
気まずさ。(沖田)2006年11月23日(木) | |
あのあと、俺はほとんど口をきかなかった。 気まずい雰囲気のまま、斉藤は帰っていった。 もしかしたら。もう、ここには来ないかもしれないなあ。 そんなことを、ぼんやり思う。 その日は、稽古をサボってしまった。 |
哄笑。(沖田)2006年11月23日(木) | |
へえ。斉藤って、こんな風にも笑うんだ……。 だけどさ。ちょっと、笑いすぎじゃない? こっちを見た斉藤が、笑いを引っ込めた。 そして、しまった、という顔をした。 なんで、そんな顔するのさ? 俺を気遣っているつもりなんだろうけど。 ちょっと失礼じゃないかと思う。 |
ぽかん。(斉藤)2006年11月20日(月) | |
……、お、同い年だと!? 思わず、俺は呆気にとられた。 しばし呆然の体で、そのまま固まってしまっていた。 が、急になにやら可笑しくなってきて思わず(本当に思いがけなくだ)大笑いしてしまったのである。 人間、しばし予想外のことにあうと笑ってしまうらしいが・・・。 あ、と思った沖田は気を悪くしないだろうか。 表情を伺うように見遣れば、すこし怒ったようなそれでいてそうでもないような・・・。 どう判断したらよいのやら、という顔だった・・・。 (沖田、すまん・・・。) 俺は心底そう思ったが、もう遅い・・・。 あぁ、俺が人付合いがうまくないのはこのせいか。 ほんとうに、すまない、沖田・・・。 |
ためらい。(沖田)2006年11月20日(月) | |
ま、まさか。 同い年だったとは……。 「何か?」 斉藤の口許がピクピク震えているように見えるのは、俺の目の錯覚か? ああ!! 今までの俺って、どんな風に見えていたんだろう。 斉藤のほうが年上だろうと、変に確信していた訳だけど。 そのせいで、妙にへりくだった態度になってやしなかっただろうか? だとしたら、かなりヘコむよ……。 「沖田。あんたはいくつなんだ?」 うっ……。ここで嘘ついても仕方ないよなあ。 「……俺も。同じ、甲辰……」 そして。斉藤の反応を窺った。 |
沖田の反応。(斉藤)2006年11月14日(火) | |
沖田が俺の年をきいてきた・・・。 これはどういう反応だ。ひどく、おどろいているな・・・。 びっくりしている沖田に、思わずその顔がおかしかったので俺は内心、おどろく以前に笑みがこみあげたのだが・・・。 もしや、いや、まさか年上か・・・。 それとも本間が当て推量でいっていたように同じ年頃なんだろうか?? 「何か?」とだけ、俺はききかえした。 内心の動揺を悟られぬよう・・・。 |
ぐるぐる。(沖田)2006年11月13日(月) | |
ぐるぐる。ぐるぐる。 さっきから。俺の思考回路は、同じ場所を行ったり来たり。 ど〜〜しても。斉藤の年齢が気になる……。 でも。でもさ? 聞いてしまったことによって、俺たちの今までの位置みたいなもんが変わってしまいやしないかと。 そんなことが、妙に心に引っ掛かって。 稽古で汗を流したあと。縁側で一緒にお茶を啜っている。 渋さに顔をしかめているところを見ると、年下のようだし。 俺の馬鹿話を大声で笑わず、口許を緩めている様は、相当、年上に見えるし。 ど、どっちなんだよ〜〜。斉藤〜〜!! ええい。ままよ! 「……あ、あのさあ。斉藤さん」 とりあえず、いつものように「さん」付けで。 「聞こう聞こうと思っていたんだけど。……あなたって、いつの生まれなんです?」 言ったそばから後悔して。 「い、いえ。別にたいしたことではないんですけどね」 慌てて、取り繕う俺。 「俺は、甲辰の生まれだ」 うん?? ってことは、俺と同い年。 なあんだ。そうなんだ〜〜。 …って。 えっ? はい〜〜!? |
呼び名。(斉藤)2006年11月12日(日) | |
俺は、試衛館道場へよく行くようになって 沖田がごくごく自然に最初から「斉藤さん」と俺を呼ぶのに対し 俺のほうは「沖田」となぜか呼んでしまっていたのに、最近にやっと気付いた。 たぶん、沖田が俺より年下のような気がしてしまっているせいかもしれない。 俺は年よりよく上に見られるのだが、まさか沖田のほうが年上なんてことないよな。 訊いてみるか・・・? だが・・・。 年齢以上に、「斉藤」でいいのだろうか・・・。 しかし、沖田に嘘をついていたとは今となっては思われたくない。 今さら、本名を名乗れないほど、長い時間がすぎてしまった・・・。 あぁ、しかし気になりだすと気が咎める・・・。 |
いくつなんだろう?(沖田)2006年11月11日(土) | |
今宵は、満月。 天空に浮かぶ、真ん丸い月。 「どうだ。やるか?」 徳利片手に、歳さんが誘う。 このごろ、ちょっとずつだけど、酒を飲むようになった。歳さんの影響だ。 この人は自分があんまり飲めないくせに、なぜか人にはよく勧める。 「うん。一杯だけなら付き合うよ」 「一杯だけか?まだまだガキだな。お前は」 自分だって、たいして飲めないのにさ。偉そう。 「あいつなら、結構イケるクチかもな」 「斉藤のこと?」 「……あいつってさ。年、いくつなんだろうな」 う〜〜ん。 そう言えば。何歳なんだろう。 多分、俺よりは年上なんだろうけど。 でも。ふとした瞬間に見せる表情に、幼さがあって……。 「意外…とさ。お前よりも下だったりして」 「そ、そりゃあ無いでしょ」 まさか、ね。 |
うつくしい眼差し。(斉藤)2006年11月9日(木) | |
あぁ、じき満月なのだと俺は夜空を見上げた。 はやく流れゆく雲のあいま、白く輝く月が光っていた。 近頃、ますます俺は「付き合い、悪いなぁ。山口」と、本間あたりにぼやかれるようになった。 今夜も一杯どうだ? と誘われたのだが、どうも行く気になれなかった。 なぜか一人でいたかった。あまりに美しい月だと柄にも無く思ってしまったせいかもしれない。 まあ、たまにはそんなのも良いだろう・・・。 そして皓々と輝く月に、あぁ沖田とこの月を見てみたいものだと思わず俺は一人ごちていた。 その柄にも無いよな感傷が、自分でもおかしくて、だが本当にいつかそんなふうに沖田を誘ってみたいと思った。 あの男となら、きっとそんな時間も悪くないような気がする。 沖田は明るい月の下では、どんなふうなのだろう。 無邪気にはしゃぐのだろうか・・・、それとも。 見惚れるように、見入るのだろうか? あの真直ぐな瞳で・・・。 そして、なぜか俺は沖田の輝くような眼差しを思い出しながら、ふいに沖田が美しい目をする男だったのだと、気付いた。 |
知りたい気持ち。(沖田)2006年11月6日(月) | |
「また……、来てくださいね?」 あの時、俺には確かな自信があった。 「ああ。また、来る」 ぎこちない返事だったけど。 斉藤は微笑った…ように見えた。 「斉藤さん。私…私ね。あなたと、もっと会いたいんです。こうやって……」 ただおしゃべりしたり、お茶飲んだり。剣のこととか関係無しに。 さすがに、そこまでは口にはしなかったけれど。 多分、伝わったんじゃないかなと思う。 だって、それが証拠に。 あれから足繁く斉藤は訪れてくれるようになったから。 とりとめない話をしても、嫌そうなふうには見えないし。 ただ……。 俺ばっかり話している気がする。 もっと、斉藤のことが知りたい。 |
得がたい友。(二) (斉藤)2006年11月3日(金) | |
そして、俺は勝負の勝敗と同じくらいに、ただ沖田と竹刀や木刀をあわせるのが好きだと、しぜん、思うようになった。 勝ち負けなどではない、何か・・・。 気付いた事がある・・・。 それは、不思議と面映い幸福な認識だった・・・。沖田の快活さや、道場の賑わい、そして沖田が若先生と慕うあの人や、他の騒々しくも気のよさそうな男たちのふうが、俺にはどうしてかひどく心地よいような気がするようになった。 だが沖田の剣、それはまさしく沖田の荒ぶる魂のようであり、同時に圧倒的に眩しいような力だ。 そして、沖田の言動のはしばし、そしておだやかで礼儀ただしくあたたかく屈託なさは、しぜん俺の心に馴染んだ、そしてその沖田の率直な気性は非常に好ましかった。 俺は得がたい友を得たのだ・・・。 そういう気持ちは悪くなかった。 沖田という男は、俺にとってかけがいのない男だと、俺は自覚しつつあった・・・。 それは、やはり幸福なのだろうと、何故か思い 「斉藤」と自然に俺をよぶ沖田を好ましく思った。 俺は、幸せなのだ。 この時間が・・・。 |
得がたい友。(斉藤)2006年11月3日(金) | |
あの日以来、俺はよくかの試衛館道場へと足を運ぶようになった。 あのあと、にこにこと沖田は彼の崇拝する師匠たち、この道場のこと、食客のことをうれしそうにずっと俺に語った・・・。俺は相槌をうつばかりだったが、沖田はとても楽しげで、何やら俺も、心が温まるような穏やかな気持ちがした。 沖田は、そんなふうに人の心を和ませてしまう男なのだろう・・・。 それに沖田は、あの何やら俺がわけもわからず、幾度か沖田のまえで固まっていたときも、始終にこにこしていた。 かの茶をふるまわれた、あの日も、しどろもどろする俺の傍らで沖田は、やはりにこやかでうれしげだった。 しかしふしぎなことに、俺は自然と沖田にもこの道場にも馴染んだ、そしてなぜか、この道場で、認められたらしい、しだが、何が・・・? という気もする。 沖田の稽古の相手ととして・・・、だろう・・か? だが、俺があの茶をすすめられたその日以来、なんというか気後れ(う、していたんだな、たぶん俺は・・。不覚だ!!)もしなくなって。 よく俺の足はあの道場へ、向くようになった |