いっそのこと。(沖田) 2006年12月28日(木)

「なあ。斉藤。いっそのこと、ここに居座っちゃいなよ。原田さんや永倉さんみたくさ。」

そうしたら、もっと頻繁に会えるし。
寂しくなることもないんじゃない?
……寂しげに見えるのは、俺の勝手な思い込みかもしれないけど。

「……いや。それは、ちょっと無理だな……」

そうか。残念だな。
それなら、せめて。


「じゃあさ。今度、斉藤んとこに行くから、道場の場所、教えてよ」


斉藤は黙り込んでしまった。

そんなに、俺、困るようなこと言ったかなあ。




ちりちり。(沖田) 2006年12月28日(木)

「お前は、かけがえのない俺の友だ」

まっすぐに俺に向けられる視線。


ちりちり……。
俺のからだのどこかを焦がすような。
なぜか。熱を含んでいるみたいな。

訳も分からず、なんだか居心地が悪くて。
俺は、視線をそらした。
斉藤がそっと溜め息をつくのが聞こえた。

どうして?
お前の今の言葉。
俺、すっごく嬉しいよ。

なのに。
なんで。そんな寂しげな顔、するかなあ。


よく、分からないよ。



愚かな男。(斉藤) 2006年12月26日(火)

ふいに沖田が笑う、あかるい声で。

俺がどもって、しまったことを指摘しながら・・・。


たのむ、沖田、今は何も言わないでくれ。
でないと、俺は何を口走るかわからない・・・。


絶対に知られたくない、くそっこんなのは俺じゃない。

一瞬で俺はやっと自覚してしまっていた、けど、かけがえのない大切な・・・。


不甲斐無い、俺はほんとうはお前に。

沖田、そんな顔しないでくれ、今を壊したくないんだ。


あぁ、俺は剣以外でもお前に・・・。


思わず、そう思ったらくすりと笑い声をたてていた。

けれど、斉藤一なんて男、ほんとうはこの世にいないのにな。
俺は莫迦だ。


沖田、お前の明るい笑み、今はそれがこわいような気がするな。

まだ、言えないその理由を沖田お前には。


俺は斉藤一という愚かな同い年の男に恋する男に、なってしまったな。
今度こそ、俺は笑いたかった、声をたてて。


だが、「お前は、かけがえのない俺の友だ」と一言だけ言った。



ほんとの名前。 (斉藤) 2006年12月26日(火)

近頃、頻に沖田がもの問いたげなふうな気配を見せる。


ときに、堂々と態度で、ときには何というか思わずたじろいてしまうような真直ぐな視線で・・・。

俺は、その視線に何かがマズイと思った。落ち着かないのだ、不覚にも見入ってしまう、そうして何も言えはしなくなる。


何か俺にききたいのかと、一言いえればいいのにと思うのに。
それが、出来ない。

この感情は何だ……。


思わず、目をそらしてしまいたくなるのに、それすら出来ない。


沖田はかけがえの無い友だ、思わずそう言い訳したくなってしまう何か?
言い訳って、誰にだ。

沖田、何をそんなに・・・・・。


あっ!

肝心なことを忘れていた、俺の本当の名前は山口一じゃあないか。
俺は思わず、本当に口に出して言ってしまった。


「お前は俺の大切な、た、たいせつな・・・、と、も。だ」

沖田は俺のいきなりの返答にきょとんとした顔をした。


えっ? 沖田はこんな男だったか。

俺は気がついた事実と自覚と自身の秘密に、実際のところ困惑していた。



リスト・アップ。(沖田) 2006年12月24日(日)

ある人物について1つのことを知ると、もっと色々知りたくなる。
これって、誰にでもある、ごく当たり前の感情だよね。


今のところ、俺が斉藤に関して知っていること。

斉藤一、という名前。
剣の流派は、無外流。
実はああ見えて、俺と同い年。


斉藤に関して知りたいこと。

住んでいるところ。
道場の場所。
家族構成。
好きな食べ物。
好きな色。
好きな……


次から次へと溢れてくる。
俺って、欲張りなのかなあ?

でも。
俺のことなら、斉藤は結構知っているはず。
だって。俺、ぺらぺら喋っちゃうし。

俺ばっかりなんて、こんなの、なんか不公平だよ!


……あ。
別に、俺のことなんて、全然興味無かったりして。
いやいや。そんなはず無いって!!
うん。

聞かないから、向こうから言わないだけなんだろうけど。
聞いたら、答えてくれるよね。きっと。
多分……。



沖田は沖田。(斉藤) 2006年12月15日(金)

俺は、まともにくらった玉の威力に頭の奥にちかちかと瞬くものを感じて呆れた。


すこしは手加減しろっ、だが俺も笑うと雪を掴んでそのまま沖田へと投げつけた、ぶわっと雪の粉があたりを舞う。

沖田は愉快そうに楽しげにやっぱり笑っている。


ずっーと、沖田はたのしくて仕方ないというようなよい悪戯を思いついた悪童みたいなそんな表情だ。

雪に寝転んでた俺は束の間だが、ゆっくりと沖田の表情を見つめるでなし、ながめるでなし・・・。


あぁ、沖田らしい・・・。
そう思ったとき、俺はこの友の心の側にいられることをまるで感じたことのないような何かだと思った。


だから、ただ見つめた。

そんな時だったから、びっくりした。なぜか凄く・・・。その人が俺に声をかけてきたことが。


「なァ、宗次はな、手強いぜ」ぽんと俺の肩を叩いて土方さんはどこか荒んだ色をその瞳にうつしつつ、それとはうってかわって穏やかに「ま、なんとかなるかぁ、オレもヤキがまわっちまってんなぁ。ガラにもねぇ説教くせぇ」と苦笑を浮かべた。

やたらとその苦笑は大人っぽく、つかのま思った。
沖田はここでとても大切にされている・・・。

なぜだがわかったそれが、俺の心をとても穏やかにさせた。


「な斉藤、悩め、悩め、そんで昇華できちまうならなァ? な? どっちだ」

「さぁ、わかりませんね」

「くっははは、君らしいな。沖田のことをたのむ」


はい、そのつもりです。声には出さずにただごく当たりまえに俺は思った。



顔面的中。(沖田) 2006年12月6日(水)
久しぶりに会った斉藤は、全身雪まみれで。
その姿を見ていると、やっぱり同い年なんだなあと思う。

斉藤の年齢が分かりにくかったのは。
特別、顔が老けているというわけじゃなくて。(源さん。あの人の場合は、特別だと思う……)
う〜〜ん。なんなんだろう。
雰囲気、みたいなのがそう見せるのかもしれない。
妙に、落ち着いたところがあるから。

ああ。でも、ほら。
こうやって笑っている斉藤って、やっぱり。


「斉藤さん!!」

大声で名前を呼んで。いきなり雪玉を投げつけてやった。

来るの、遅すぎなんだよ!!


あ。顔面に的中した。



雪玉。(斉藤) 2006年12月5日(火)
息をきらしながら、走ってきた俺を出迎えたのは雪玉だった。

「よぉ、やっと来たな」

「ほんと、ほんと。ぜんぜん来ないんだから」

「全くだ」


俺はいつのまにやら、ここで受け入れられていたらしい。


一発づつ雪玉をまたくらった。
そして三人の気のいい男達も雪まみれだった。


俺は気がせいて挨拶もわすれて「沖田は?」

「いま、呼びに行こうかなって思ってたとこ」

「おい、とりあえず雪払えよ」

「おそらく食客部屋か、道場だろう」


それに礼だけ言って俺はまた走った。


いた、沖田だ。

だが、俺はそこでぼんやりとしてしまった。そして沖田が兄のように慕う人と、楽しげに笑いあう沖田をしばし眺めていた。


あんまり気が急いていたので何の言葉も出て来なかったのだ・・・。


そうしていると沖田が俺に気付いて、やっぱり呆気にとられたような顔をした。

だが、笑顔になるとこっちにやってくる。


俺も自然二人のほうへすすんだ、土方さんに俺は何とか挨拶したが・・・。

「寂しかったですよ」

「沖田、すまなかった」

どこか、ちぐはぐだが言葉を発したのは一緒。


俺は、それにも沖田の言葉にも驚いたが沖田の笑顔を見て・・・。
しぜん、俺はもういいのだと思った。

もしかしたら俺の顔にも笑顔が浮かんだのかもしれない。

とても温かい空気を沖田との間に感じたから・・・。

「あっ、すごい雪まみれ」

「あの三人はもっとだったぞ」

今度こそ、互いにぷっと吹き出した。



初雪。(沖田) 2006年12月4日(月)
雪が降った。
初雪だ。

「道理で。寒いと思った」
歳さんの口から白い息。

「もう、師走だからね」
そう言う俺の息も白い。

積もるかな……。
ぼんやりと、舞い散る粉雪を見上げる。

「…で。喧嘩の理由は何なんだ?」

うっ……。
まったく。いつも不意を突くよなあ。歳さんてば。

俺は少し迷った挙句、ポツリポツリと、あの日のことを話した。
案の定、途中まで聞いて、歳さんは大笑い。


「まさか、同い年だったとはな!! アイツ、老けて見えるよなあ」
そして、また大笑い。

「でしょ? 斉藤ってば、絶対、年相応じゃないよね!?」

「ま。そう言うお前も、その年の割にはガキっぽいけどな」

「うわ。ひどいなあ〜〜」

「……ホラ。こうやって、笑ってやりゃあ良かったんだよ。そうすりゃあ、ただの笑い話ですんだのさ」


ああ。そうだったんだね……。
こんな簡単なこと、気づかなかったなんて。
俺って、馬鹿だなあ。
あ。斉藤も、馬鹿か。

そう思ったら、可笑しくて、笑ってしまった。




粉雪。(斉藤) 2006年12月2日(土)
今日は冷えるな。


沖田と会わない日が続いている。
会いにいこうと決めた日から、逡巡を繰り返して・・・。

だが今日こそ、彼の顔が見たい。


外に出た俺は一瞬、呆然とした。
白い淡い雪が散っていた。


あぁ、あんたと見たいもんだよ沖田。
理由はそれで十分。


風雅とはとんと縁の無い俺でもそう思った。
だから、俺は走った、ひたすら市ヶ谷へ。


(沖田! 俺は馬鹿だが、あんたが好きだ。)



喧嘩じゃないよ。(沖田) 2006年12月1日(金)
「お前たち、最近、何かあったんか?」

「何かって、何がだい?」
そう返事したのは、歳さん。

「トシに聞いてんじゃねえって」
苦笑する若先生。
俺も笑おうとしたけど、うまくいかなかった。

こちらへと注がれる先生の気遣わしげな視線。
ああそうか、と俺は納得する。
”お前たち”って、俺と斉藤のことか……。


あれから数日。
斉藤は、試衛館に来ない。
それまでだって、毎日会っていた訳じゃないけれど。
この何日かで、俺は悟った。
斉藤が相手じゃないと、稽古がつまらない。
こんなの、初めてだった。


「喧嘩でもしたんだろ」
歳さんが笑う。

あれは、喧嘩…じゃなかったはずだ。
いや。喧嘩にもならなかった。


あのとき、俺はどうすれば良かったのだろう。
これから、俺はどうすれば良いのだろう。