『旅立ち』
貴方が好きでした。
一生、言うまいと思ったことば。
だけれども、未練だと知りつつ。
「貴方が好きでした」
お互い知っていたでしょう?
だから言わないつもりだった。
けれど、貴方に生きて欲しいから。
もしも俺さえも失って、貴方が戦場で死に往くのならば・・・。
この言葉を形見にしてね。
最後のさいごまで、貴方の傍に。
「貴方が好きだよ、ずっと昔から・・・。」
待っています、先にいって待っています。
俺は笑えているかな、いつもみたいに。
貴方の知っていたおれのままで。
だから、おれは生きるんです・・・。
あきらめが悪いね? ほんと。
それでも、貴方に
「貴方が好きです、ずっとずっと・・・。」
だから、さよならは言わない。
これが、貴方にあげれる唯一の形見。
あぁ、おれは風になるよ。
貴方ともう一度逢うために。
もしも来世があるというのなら、もう一度貴方にあいたい。
沖田総司は死の間際、淡い笑みを浮かべたという。
彼の最期に見たのは黒い猫。
ときたま、あらわれる猫を沖田は心の慰みにしていたのだろう。
静かに彼はひとり逝った。