風邪ひき。
風邪をひいた。


くしゅん、ずるずると洟をすすりながらぼーっとしてると。
ふいに、土方さんがやってきた。

ぱぁーんと開け放たれた障子にかすかたじろいた・・・。



斎藤はいない、今日は三番隊のれんじゅうがかしましかったからおそらくなにやら上よりくだったか、それか刀か女かと思う。

それか、呑みにでたのかもしれない。やつは、ふらーりと酒を飲みにでるやつだから、と。




「って、あなた、何です?」

あ、と・・・。

だが、憎まれ口をついたのに・・・。

つい歳さんの目を見てしまった。

みょうにてれ臭げだ。

なぜか、そんな歳さんがかわいくって笑った。


「何がおかしい」ぶっきらぼうに言う、この人が大好きだ。

だが、「もう、心配しないでくださいよ〜。ただの風邪だから」


うん、と言いつつも心配なんだと、ぽそと云う。
そんな歳さんは、やっぱり可愛い。


だから、甘えてみたくなる。

「ねぇ、一緒にいて」


そうすると一瞬の逡巡に照れが含んだのがうれしい。

だから、わざと・・・。

「ただ、手を握っていて。私、それだけでいいの。ねぇ、私が眠るまで。こどもの時みたいに」

てれたみたいな表情をする、そんな歳さんがうれしい。

あたたかい掌・・・、それに安心しながらわたしは眠ったようだった。



だが、次の朝、握りしめられたままのてのひらと、私の蒲団に知らず寄り添うようなこの人が愛しい。


「風邪うつってしまいますよ?」

きこえてないのか、幸福そうな表情の歳さん。


そっと、腕の中に抱き寄せてみた。


そして、そのままおれもまた眠った。


あぁ、アナタが好き・・・・・・。


2006/11/28



(続) 明日の今日。(二)
おれは、ずうっと考えてた。


何にも考えて来なかった報いのせいか、おれはちょっとばっかし落ち込んでいた。

わかっちゃった何か、知りたくなかった何か。



それがみぃんな、いっぺんに押し寄せる何かのようにひらけて・・。

けど、今を壊したくない。


なのに、ひょいと現われたあの人。


ふぅとため息を吐いて、それでも華やかに笑むその人。


「宗さん、オイラもヤキがまわっちまったねぇ らしくない様さあね」といささか本当にらしくないよな弱ったという微笑すると、柔らかな声であぁまいっちまったねぇ、を繰り返す。


「と、歳さんは・・・?」

きいたおれよか、よっぽど悲しげな顔して若旦那は・・・。


「ん? あのお人はやさしいヨ、わかってたのに・・・、おいら野暮さぁね」



「ねぇ、おれのこと・・・。」


それ以上は言葉につまった。

しかし、伊庭の御曹司はからりとした笑みを浮かべ。


「オイラ、はなっから、そのつもりだった」



・・・・、・・・。

「ごめんなさい」・・・。無言が続く。


「あなたのこと好きみたい」


伊庭の御曹司は呆気にとられた表情をした・・・・。


ただ、そのあとはぐいと抱きしめられた・・・。



それでも、歳さんの真摯すぎた瞳をどこか思って、なんやらせつない。

ただ、抱きしめてくれる腕の力強さにおれは知らず、涙した。


あぁ、おれ、アンタがすきだと、思いながら・・・。



2006/11/28



新月。_花散る夜。
「沖田、何をそんなに・・・。」


斎藤はやはり沖田の心の翳りが哀しかった。

静かな問いかけ、したが沖田は黙したままただ微笑みを浮かべた。
心配してくれるな、哀れんでくれるなというふうに。


「斎藤、言っておきたい」

きいてくれというふうに、沖田の目は真摯な光を帯びた。


「おれは、うれしかったよ。お前と・・・。」言葉にならぬことばをひっしに探して。


「そうだな、お前がいてくれてよかった。」

何をいうのだ、沖田は・・・。
何を・・。


「斎藤、お前はかけがえの無い友だった・・・、頼む。」


何をとも、誰をとも沖田は言わず笑みつつ云う・・・。


沖田、俺を泣かせてはくれぬのだな。

ならば・・・。


「わかった」

「ありがとう、お前、嘘がつけないやつだ、だから信じれる」


「らしくない、アンタらしくない。」斎藤の声に微かに嗚咽に似たなにかが交じる。


お前こそ、と沖田はあかるく笑う。
ずいぶんと昔、斎藤が知っていた沖田の笑顔だった・・・。

沖田そのままの笑顔だった。


それでじゅうぶんだと、思った。

だから、これで良いのだ。


俺もお前なら信じることが出来た。

お前の笑顔が変わらないなら、俺はお前を信じよう・・・。


むかしのままの、お前の笑顔・・・、なぁ沖田。


2006/11/26



冬の歌声。
「斎藤が戻ったと聞きました」

深夜ひっそりと沖田の病臥する部屋をおとなった土方に、沖田は言った…。

「あぁ」


「どうしています?」

「普段通りさ。変わらねえな、斎藤は」

「名前、かわったんじゃないんでしたっけ?」


「まぁな、だが皆が斎藤と呼ぶんでそのまんまさ」

「そうですか・・・」


二人とも確信を避けて話していた。


「なァ、総司。おめぇ・・・、いや何でもねえ」

「言いかけてやめるんですか? そりゃないですよ」


「明日あたり斎藤をよこすか・・・。」


「斎藤から何を聞かなくっても、もう充分ですよ?」それに感染る、と続けて沖田は痩せた顔で笑った。



「それに、悔いちゃあいないですよ? 誰も、だれもね」

土方さんだって、そうでしょう。と、微笑む。

「総司、すまねえな」

「なんで、私に謝るんです?」


「そりゃ、おめぇが一番泣けねぇ野郎だからさ・・・。」

「ねぇ土方さん、私ずっと近頃おさない頃のこと思い出すんです。あれは姉さんかな? 誰かが歌ってくれていた。だから泣かなくっても平気なんです。ずっと平気だったんですよ」


「あーあ、俺は莫迦やろうだな・・・。俺がおめぇに泣き言いっちまってるな」

いいんですよ、とだけ沖田は言った。


「ねぇけれど、土方さん。私が死んだら、泣かないでくださいね」

あなた、泣き言いえるのは私くらいだし・・・。


歌うように、沖田は言う。

「そうだな。第一、おめぇがそんな簡単にっ」


私より、よっぽどあなたのが病気みたいですよ。
そんな顔しないでくださいよぉ、本気でそう思うなら。


あなたが、泣いたら歌ってあげますから・・・、ねぇ土方さん・・・。





2006/11/24



命にかえて、、も。
逝くな、いかねぇでくれ。


泣いて目が覚めた。

ふっと隣を見遣れば。
あぁ、生きている・・・。あたたかい・・・。


闇を凝らすと、総司の視線を感じた。


ふんわりと穏やかに笑う気配がする。


「歳さん、どうしたの。おれはここにいるよ、絶対離れないって約束したでしょう。」

と、そっと手を手繰り寄せられ握りこまれた。


「好き、好き、すごくあなたが。離れたくないから。どこにも行ったりしないよ、行くときはあなたも一緒、ね?」


嘘だ、おめぇがすっげえ優しいときは、ウソをつくときなんだ。
なんでだ、おめぇが望めば命だって惜しくはないのに。

と、(貴方、命よりたぁいせつなもん、幾つもあるでしょう)



こんなふうに総司がなる前そして俺たちがこんなふうな関係になる前、よくそう総司は言っていた。したが、今は・・・。

あぁ、あぁだがよ、どうしてだ?
どうしておめぇは俺をつれていきたい、とは言ってくれねえんだ。


総司がそっと動いて痩せたほそい腕で俺を抱きこんだ。


「あなたが好き、だから泣かないで。絶対に約束は守るよ」

俺は、総司の腕の中でひたすら泣きじゃくった。


あやす腕がせつなくて、甘いことばが哀しかった…。


2006/11/21



慰め。
「山崎さん、あなたいいなぁ」

へっと、いう顔をする男に


「いやね、純粋に好きなんだなぁって」

何がとは訊くに訊けなかった・・・。
なんとなく沖田の心情がわかってしまったような気がしたから。

「沖田はん、気ぃつかいすぎですよって。あんまし思いつめるんは
ようない、ようない」

と、言って山崎丞はあかるく笑う。


「だってわたし、何だかどうしてか寂しいんです・・・」

「信じなはれ、そいで、ほかんことぜぇんぶ忘れて、な?」


くすと笑って「ごめんなさい、こんな時に・・・。」

いいんですよというふうに、山崎の目は優しくなった。


「なァ、沖田はん。わいでいかったら、いつでも何でもいわはってぇな」

「でも、私これから人斬りにいくんですよ。そんな私でも、貴方・・・」


「ちいさい子らと無邪気にあそんではる沖田はんを、知ってるさかい。なぁんも怖いこと、なんてありませんよって」

「ふふ、貴方やさしいなぁ・・・。ほんとご免なさい」


「なぁ沖田はん、わいもあんたと同じですよって、ここは鬼の住処、そうでっしゃろ?」

「山崎さん・・・。」


沖田は甘えてしまった自身を恥じるように

「ねぇ? わたし後悔しません」と雰囲気一転、無邪気な笑みを浮かべた。


2006/11/19



お揃い。
「月見酒といきませんか? 斉藤先生」

沖田の目は悪戯っぽく笑っていた。

本当にそのつもりらしく同じ猪口を、ふたぁつ差し出してくる。


酒はと問うと


「もちろん、アナタのおごり。持っていますよね〜?」

斉藤しょうもないなという顔もしたが。

「あんた、酒をやるのに最初からたかる気でいたのか」

と、笑った。


ふふふ、よっく見てくださいよ〜。高かったんですよ〜。

よい品でしょう、あなたと一緒にのみたいなぁって思ったの。
にぶいよなぁ斉藤さん。

まぁ、そこがいいんだけどね。



2006/11/18



情人。(業)
恋は哀しい、せつなる思いで己が身が慄く、ひたすら穏やかに柔らかく自身を抱く男の腕の中で、土方は自らの想いの深さのまま喘ぐ。


忘れたい、今だけは。
この腕の中に抱かれているいまだけの刹那は・・・。


しっている、もう男の瞳になんの想いもないことを。
それでも、離してやることなぞ出来るものか。



あぁ、あぁなんて冷たく澄んだ色あいだろう…。
まるで深い深い水底のよう。


そんな情交の最中、その瞳を見たくなくてひたすら目を瞑って年若い情人をもとめた・・・。



2006/11/17



熱燗。
へくし。


なんとも、らしくないが風邪をひいたらしい男が隣で燗をつけさせて、ひょいとやっている。

こんな夜に呑みに出るでもあるまいに、と思ったが。
沖田めったなことでは、斎藤の誘いを断らない。


呑むと人が変わるかというと、そうでも無い男であるのだが。
楽しげにうれしげに酒をやる斎藤は、やはり味のある面白い男だった。
ただ、その微かな変化は沖田くらいにしかわかるまいが・・・。


たいていの宴席でも騒々しいなか、一人黙々と飲んでいる。

そんな斎藤だから、実のところ楽しげ、だなんぞとわかるのは沖田くらいだった。


今日も目がほっこりと柔らかくなった。

沖田は、ふふと含み笑う・・・。


何を話しするでないが、沖田のほうも心地よく酔えそうな夜である。

ふつう友ともなれば、「今日はよしましょうか」とでもいうのが常道かもしれなかったが・・・。


まぁ、斎藤が呑みたいと言ったのだからよいだろうと一人決めして沖田も、この時間を楽しむことにする。

だが一応「一さん、風邪ひいてんだから、今日は飲みすぎ、気をつけてくださいよ〜」

と、間延びした声をかけた。


が、斎藤もかすかに笑みを浮かべて


「なぁに、こんな夜だから旨いんじゃないか、沖田さん。アンタらしくもない心配しなさんな」

「いえね、心配って言うより、うつされんのも困るんで」そんだけですよ、と

「莫迦を言え、うつるんならとうにうつってるさ、よもや昨夜のこと、もう忘れちゃいまい」

「ふふふ、どうですかねぇ・・・。私ってば本気ばかですからぁ、いやはや。けど、もう酔ってますね〜。ほんと顔に出ないんだから危ない、あぶない」


「けど、今夜は駄目ですよー。一応、あなたのこと、これでも、ね?」


「ふん、お前さんの言葉はアテにならんぞ」


(あー、ほんとらしく無いなぁ饒舌になっちゃって、まぁ。アナタかついで屯所までかあ、それも悪くないか。ふふっ、これでもそれくらいは本気であなたのこと、思ってるんですよぉ。けど、潰れないでくださいね〜。かつぐのはちょっと重いかなァ・・・。肩なら貸してあげますケドね?…。)


「なあ沖田、お前わかりやすいなぁ、心配しなくていいぞ。歩いて帰れる」

と、斎藤は苦笑した。

それから「あんまり飲んでないじゃあないか、食ってばかりで・・・。寒い夜だ、アンタも呑め。つぶれたら俺が担いで帰ってやるから」


斎藤は、らしくないほどはっきりとからりと明るい笑みを、その顔に乗せた。

「あーあ、あんたにゃかなわないね、斎藤せんせ」


2006/11/17



小春日和。
「歳さん、いやあにご機嫌じゃあございやせんか? なんぞよいことでもあったのかねぇ、ちィとばかっし妬けるというものサネ!」

伊庭はふふふと笑みつつ歳三にいう。

なんてことはない、いつものからかい交じりの伊庭のヤキモチだ。
土方のほうも、それはわかっているから。

ちょいと、ほつれたよな横髪を払いつつ

「なぁに、なんでもねえよ」
それに、しってるんだろうとわざとからかう相手を睨みつける。


ただ、そんな顔も伊庭には可愛いくって逆効果だ。


「ケド、おいら妬けるのもほんとさぁね、なんせ歳さんには目にいれても痛くないよなお人がいるじゃないかえ? たいそう評判だよ、いやぁ、おいらも気が気がじゃないねぇ」

「バカ言うな、アイツはそんなじゃねー。」


本気で怒る歳三にやぱっり、ひかれてなさると、小声で伊庭は答えわらう。

したが、おそらく土方にとって、あの若者は聖域なのだ。


だからこそ、よりいっそう気にもなるが、その青年、伊庭と同い年ながら、とんと無邪気で女も知らぬげなふぜいなのだった。

そこが、せめてもの救いなのかもしれない。


「勝ったんでしょう、沖田さん。歳さんが自慢なのもよっくわかるってもんだ」と、話をきりあげて伊庭は笑った。


土方はやぱっり、うれしげに笑う・・・。

どこか妬けるには違わないが、やはりなごやかな一幕だと伊庭も微笑った。



そう、まるで初冬の小春日和のように・・・。


2006/11/15



赤い炎。― 巫者
自身の中を焼き尽すかのように。

ただひたすらにあつい・・・。
それでもなお、ふいに水のような気配がすぐそばにあった。


お前の湖面のように凪いだ佇まい、淡くゆらめく瞳。

かわらぬまま、かわらぬまま。


俺は欲しい、欲しいと。
ないものねだりしたように、ずっとお前が欲しい。



だが、お前の静か瞳は凪いだ水面のよう、そしてお前の微笑みは輝く夏の陽光のようにあかるい。


欲しいとさえいえぬ、それでも俺はお前が欲しかった。



ずっと欲しかった。

だから、せめて言葉も態度も望むまい、その静かすぎた瞳だけを連れていく、どこまでも。

永遠に。


2006/11/14



軍人。(いくさびと)
以外とがらっぱちですな、ふむと、土方が笑うと。

おやという、ふうに大鳥は傍らに立ち自軍いやそれよりもはるか彼方を睥睨するようにみつめる男に、どういう意味だと視線をなげた。


いや、貴方のおっしゃりようです。

と、そのまま振り向きもせず淡々と土方はいう。


何がと、思った。が、ふと先日この男と酒宴のさなか舌戦を繰りひろげたあげく、思わずグラスをたたきつけそうになったことを思い出した。


「わすれてくれ、酔っていたんですよ。土方くん」

「いや、よほどそういう男のほうが信頼できる」


え、と顔をあげると土方は
振り向きつつ微笑みをうかべ、


「大鳥先生、おれを誤解しちゃあいませんか? あんたのようにはいかねぇが、おれだって死ぬばかりと思って戦をするものか。たとい、死に遅れちまったと思っても。やるかぎりはおれは、負ける気なんぞ、ハナからない・・・。」


「そうか、土方くん、きみはほんとうに根っから武人なのだなぁ・・・。」

大鳥の間の抜けたような感心のしかたが、おかしかったのか土方はからりと笑った。

いつも、生粋の武士ではないという劣等感を持ち続けてきた土方だったが、大鳥の言葉にはなぜか反駁の気持ちも苛立ちも起きなかった。

明け透けなのだ、あれほど、緻密に軍略を練っておきながらなんという、変わった男だと。


なにやら、好感めいたものをはっきりと土方は覚えた。

知ってか知らずかのん気に大鳥の声がする。

「なぁ、土方くん、私もやるからになんとか今日は持ち堪えてみせるよ」


あはは、死なんでくださいよ。と土方は笑った。


2006/11/12



白い炎。― 生け贄
さだめし私は恰好の贄でしょう、貴方が灼熱の光を放ちながら堕ちゆくための。


疾うの昔にすべてを捧げていました。貴方の光にのみ込まれて。


だから、いつも惜しむものなど何もなかった。


でも、貴方は知らなくていい。
知れば、やさしい貴方の心は軋む。


知っていましたか?
貴方の態度、心、その全てが私を欲しいと言っていたのを。

だから私は貴方の心を知らないふりをする。



そうして、私は貴方の前では決して本当の自分を見せない。

それが共に堕ちると決めた私の心です。


私の全ては、貴方のもの。

あぁ、血生臭いこんな中にいてさえ、私は幸福で気が狂いそうだ。


そしていづれ、私は本物の贄となり血の通わぬただの骸と成り果てる、私が屠ってきた幾つもの命のように。


その時こそ、貴方は知るのかもしれない。
私の全てが貴方のためにあったことを。


でも決して私は言わないと、決めています。
どれ程、私もまた貴方を愛していたか、そして憎んでいたか・・・。



あぁ、貴方は私の全てでした。


2006/11/11



恋愛経験値。
「ねえ、もしさぁ今夜もとかだったら、女の人のとこ行ったら?」

あ、やば〜、顔が土方さん、すんごくこわく・・・。なった・・・?
デモデモ、無理っていうか、つかれてんだよぉ〜。
だって、毎日なんだもん、ぐすっ。

で、言ってみた、かなりカワイ子ぶりっこかもって自分でもちょっときもちわる〜、だったんだけど「あ、えとそのね、近頃さぁ。ほらよっく文がとどいてるじゃん。あーもう、歳さんんてば黙ってるだけで昔っからもてて、すごいよー。ね_?」


寂しがってる女の人ほっとくなんて、歳さんらしくないと
続けようとしたら・・・。

「おい、なぁにが言いたいのかなあ? 沖田君」

げっ、陰険・・・。って外したの、がっくし。もうあまえっこしてもさすがにきかないのか。・・・。

それに何ってそのナ二ですが・・・。


「あのぉ、歳さん。もしかして怒った?」

「たりめーだ、このウスラトンカチ。総司、俺とおめぇ今どういう関係だか、知ってるよなぁ、なあ、なあ、なあ? あぁん?
それとも俺だけが、そう思ってるかな答えてくれてみてくれたまえ、沖田」

こたえてみてくれたまえって、そりゃあ・・・。


「えーと、こいびと? でしょ」


いったぁ、この人本気で殴った。


「だったら、どういう了見だ。女んとこ行けだぁ、オレがただやりてぇだけの男に、見えるってか? 好いたもん同士が何が悲しくって別々の夜をすごさにゃならねーんだ、なあ?」

って、言われても。

・・・。

「だって、歳さんおれ今日はすっごくすっごく疲れてんの」

「だったら最初から、そう言え。せめてなぁ・・・。」


そこで、歳さんは言葉を切った。

「なぁ、総司。俺はなあ、おめぇに惚れてんだよ」


いやに、しみじみ

「そうじ、俺、そんなにおめえに無理させてたのか」

横顔がやけに、寂しげになった、さっきとは別の人みたいに・・・。


「ううん、ううん、そんなこと・・・。」

「いいんだ、俺が無理やりおめえに」

そんなこと、そんな顔で言わないで


「好きだよ、すっごく。ごめん、おれさっき、あんなこと・・・。歳さん・・・、傷つけちゃった」

「莫迦、ちっくら、な」


優しくってきれいな顔で笑ってくれて


「ご免、ごめんね」


歳さんは、ヨシヨシというふうに俺の肩をたたく

「総司、お前かわいいな、わかってる。おめぇのことは」

待ってるからなと、綺麗な顔で笑う。

「うん」



で、結局・・・。あぁ、だが何も言うまい。

翌日。おれは吹きすさぶ秋風になぶられて、自分でもらしくないよに、抜け殻状態だっただけだし、ふっ、おれって・・・?


2006/11/11



情人。(朧月)
「なァ、きいていいか」ぽそりと土方は伊庭に、躊躇うようにか細く言葉をかけた。気怠げに褥に横たわる男に背中を向けたまま…。


共寝の後の甘さには、その声いろは静かに過ぎた。

だが伊庭は答えずに土方の男にしては白過ぎるほどの背を、ただ無言のまま、引き寄せて。


すっと伊庭はそのまま土方の耳朶をキツク咬む。
なぜかその痛みは甘かった、沁みこむ毒の様に。


抱き寄せる男がほのかに笑む気配がする、だがその音は物悲しかった…。


「なぜだ?」土方の唇からはなじるような問いが、そしてその瞳からは涙が零れ落ちた。

それでも年若い男は答えない、ただ柔らかく後ろからそっと宥めるようにか、愛しいようにかその腕に擁くだけ。


伊庭とてほんとうのところ、この美しい情人をなじってしまうのかも知れぬのが恐いのだ。


ただ、愛しさもほんものだった。
だから伊庭は微笑むことしか出来なかった。


どれ程の時がたてばこの恋は終わるのだろうと、

そっと静かに不実なはずの年上の男を抱き寄せながら、伊庭は思った。


そして、おそらく今の自分はあの同い年の若者と同じ目の色をしているだろう。

それがわかってしまう自身もまた罪人だった。
己も囚われたのだ、あの闇い恋の淵に…。


「アナタが好きだよ」

と、澄んだ声が聴こえた気がした。


思わず、伊庭は土方をぐいと抱きしめた。





ねぇ、トシさん、オイラは泣けやしない。
ふふっ、知ってたヨ。らしかないと笑ってやっておくれヨ、ねえ。

浮世の恋なぞ、そんなものじゃあないのかえ。


2006/11/09