春霞。

 

 

 

「ときが、あたしに追いつくわ、ねえそう思わない? 鷹男・・・」ふいに瑠璃姫は見上げた満開の桜の下で、唐突にいまや日嗣皇子に位を譲った、かつて日の本の国の一の位にいた男に言った。

 

「ふふっ、あたしうれしいの。こうしてあんたと桜みたかったのよ・・・。ねえ綺麗ね。なんか泣けちゃいそうなくらい」

 

鷹男と呼ばれた男は、その幾つとしをへても可憐な乙女のような彼女に見惚れ、そうして微笑む。

 

「まるで貴女はかわりませんね。今も桜の精のように、お可愛いらしい。」

 

「あら、やぁね、鷹男ってば、こんなおばあちゃんに、相変わらずなんだから」すこし拗ねたような物言いも男には愛くるしく思われる。

 

「ふふっ、あたしの夢だったのよ。こうしてあんたと二人、桜のしたで・・・」

 

さりげなく男は近付くと、そっと女の手をやさしく捉えた。

 

「いまの貴女はまるで天上に住むひとのようだ、だからこうしてつかまえていたい」

 

振り返った瑠璃姫はくすくすと、そんな男に笑いながら「なら、あんたは天界のひとでしょう」なら、おあいこよ。と続けて・・・。

 

「ねぇ、鷹男・・・。いろんなことがあったわね。けれど、あたし後悔なんかしてないのよ、けど今すっごくしあわせな気がするわ、きっとあんたのおかげね。感謝しなくちゃね」

 

「私のほうこそ、しあわせですよ。貴女は私にとって夢の中に住むという佳人のようだから」

 

まぁ、という顔をして瑠璃姫は「ほんっと、口がうまいわ。鷹男は・・・。あたしは元気いっぱいで、そんなの似合わないんだから」

 

「いいえ、貴女は私にとっての花でした、知っていたんでしょう姫・・・」

 

 

ハラハラ降り落ちてくる花びらの中で、そう言われた女は、それでも朗らかにしかし昔はなかった憂いを瞳にのせて微笑んだ。

 

好きよ・・・。