「宗さん、あんた、まるでお人が違ったみたいだよ。」

軽く笑い飛ばそうとする伊庭ににじりよるよに、近づいた沖田
は哂う。

「もともと、俺はこんな男ですよ。若旦那、あんたが俺を知ら
ないだけ」

「ねぇ、歳さんを抱くんでしょう。おれにも教えてよ・・・」

その目は底のしれぬ淡い暗闇を抱いて揺れていた。

堕ちる・・・。
そして伊庭は悟った、この若者は恋のあまりに苦しみもがき堕
ちたのだと。
そして、またおのれの憧憬のような沖田への思いもすべて沖田
は見透かしているのだ。

歳三はつれない情人だった。
恋だと言ってもいいほどの、だが歳三にそのつもりはないだろ
う。
知っていた・・・。
そして、それでもいいほど伊庭は歳三に惚れていた・・・。


だが沖田は・・・。

ふいに沖田の声は柔らかく、毒のように沁みこんでくる。

「ねぇ、おれを抱いてよ」

甘く寂しげな声だった。
あぁ、こんな瞳の色は確かに知らなかった・・・。
こんな声も知らなかった。

伊庭は追い詰められたのだ、もうどうにもならなかった。





破瓜の痛みに、若い美しいからだがのたうつようにしなる。
だが、声もたてずその長い腕だけがすがりつくように必死に己
を求めるさまに思わず男は我を失いかけた、混乱と酩酊。

だが、だめだ。
ぐいと男は唇を噛締めた。
甘さのカケラすらないはずの情交・・・。


だが、どうだ。その腕は伊庭を翻弄しつつあった。
きついまでのしめ付けと、喘ぎひとつもらさぬ唇。
ひらきたい、脳裏を鮮烈なまでの欲望が支配する。

自然、伊庭は我をわすれつつあった・・・。

声が聞きたい、その唇から。
あつく漏れるであろう、甘い声を。

そして痛みをかみ殺す沖田に伊庭は
言うに、言えぬ睦言のかわりに。

甘い愛撫を、やさしく長いゆびさきで・・・。


ほどこした。

それでも若者は頑なだった・・・。


甘い責め苦、それはどちらの若者にとってだったのだろうか。
長い夜は、終わらない・・・。