『恋』

 

恋など、いらない。
すべては剣に奉げたかった。


それが沖田の本心であったはず、なのに。
恋をした。



甘い、苦い記憶。
美しい男、その男にいつのまにやら抱かれるようになって。

その当時、それが恋だとは知らなかった。
知らなかった・・・。

だが忘れえぬ、不思議な夏の日々・・・。


なぜなのか、恋だったのだと気付いてしまった。
あの人は、きっと美しい沖田の兄のように慕うひとを愛していたのだと、思っていたのに。

なぜだったのだろう・・・。
そして沖田も土方を愛していたと信じていたのに。

何から、何まで叶わないと思っていた同じ年の男・・・。


もう、思い出せない。

ただ、やさしい柔らかい声と。
不思議な翳りを帯びた目。


なぜだったのだろう、あの人は別れの時。
ただ一度だけ言ったのだ。

「・・・。」

もう思いだせない。


あの柔らかい横顔を。
けれど、真夏の陽射しの中でらしくないほど。
快活に笑ったあの人の笑い声と、なぜか見た覚えのある一滴の涙・・・。

春のように穏やかだった、あの人の真夏の俤・・・。
きっと恋だったのだ。

恋だったのだ。


雲ひとつない青空を沖田は仰いだ。
きっとまた自分は忘れてしまう、と思いながら。