情人。(未練)
「静かだなぁ」と、ぼんやり男は微笑う。


沖田の胸にすくう病は日に日に、濃くなってゆくようだった。
かすかに隊士達の稽古やら、賑やかしい声なども聴こえてくるが、やはりとても静かだった・・・。

血を喀くせいか青白くなったおのれの手を見て沖田は、またぼんやりと哂う。
細い指になったと、われながら思う・・・。
ふしくれた枯れ木のようで。


ふしぎな程、和やかな気持ちだった。


あれほど、剣を持てぬ焦燥に身を焦がしていた日々が遠く感ずるほどに。
それほど、静かだった。


だから、静かにその穏やかさに身をゆだねた・・・。



あぁ、今夜もあの人は来るだろうな、と。
かなしい諦めにも似た思いが、沖田の心をわずかきしませたが・・・。

もう来ないで、とは言えない私を、あのひとはきっと知っているのだろう。


男の沖田への執着がかなしかった・・・。
訪う男が哀れなようで。


それでも拒まぬ己が、愚かなようで。


さびしい、さびしい、さびしい・・・。
抱き寄せるたび、そうきこえてくるような気がして。


その未練がイヤだった。
おのれの心の、その未練がいやなのだった。

ただ、「さびしい」ときこえる心音はどこか懐かしくいとおしい。


あぁ、生きたいのは私のほうなのだと、遠い喧騒のなかの静けさの中、沖田は自身を哂った・・・。




2007/02/26



決壊。

すーっと血の気のひいた顔、定まらぬような視点。
そんな友を哂うでもなし、どうにもこうにもやれやれと沖田は静かに眺めた。


何もいうことなぞ、ありはしなかった。

「沖田」と静か問うような呼びかけ・・・。


だが、沖田はやはり黙っていた。



長い沈黙が続く、だがやけに律儀で実直そうな声音で

「なぜだ?」と、声がきこえた、沖田はかすかに笑みを浮かべる。


あまりに的外れなようで、おかしかったから。


「何も」

「そうか・・・。」乾いたような声がきこえ。



この友は、いまだこの自分を昔のままに見たいのだなぁと、どこか忘れたはずの感傷の中でぼんやり思う・・・。


そうか、今のおれはもう狂っているのだろう。


もう、それが寂しいとも悲しいとも思わなかったが・・・。
どこか友の空ろな表情と、昔のままにおのれを呼ぶ声がなぜか、身にこたえる気がした。


もう、俺は狂ってしまったというのに。


自身の薄情も優しい友の、不器用さもやはりおかしい。
そうして、沖田はやはり壊れてゆく・・・。

やっぱり、こわれていく。


沖田はこれ以上はないというほど明るい笑みをうかべて言った。

「何もないよ・・・。そう何もね」




2007/02/22



恋をしている。
「歳さん、好きですよ」

あなたは唐突な私の言葉に真っ赤になる。


それが、やっぱり単純にうれしいから私は幾度も言ってしまう。

貴方の心音が私に伝わってくるようで、すごくうれしい・・・。
やっぱりうれしい。


「あなたが好きだ」



あっ、また赤くなった。


ふふっ、そんな可愛いあなたに恋をする。



きっと、こんな時間はながくはないから私のわがままをきいて、ね、歳さん・・・。

あなたを、そっと抱きしめて私は言う。

「あなたは、私のものです」


あぁ、ふるえるあなたの指先にくちづける。

「ねぇ、私のものでいてね。ずっと。」


てれたあなたは、そっぽを向くけれどやっぱり私の腕の中、あなたは可愛いひと。


負けず嫌いのあなたは、それでも憎まれ口をたたくけれど、それでも可愛い私のいとしい人。


私はあなたに恋をしている。


わたしは貴方のモノ、アナタはわたしの愛しいかわいい人。





2007/02/09



情人。(真紅の雨)
夢を見た、真紅の夢を・・・。


「私もあなたも、同じ夢を見ていたんですよ」と夢の中、くったくのない若者の声がする。


あぁ、そうだ。

だが、ここは一人だ。


もう、俺には何ンにもわかんねぇよ。



ただ、ただ俺はおめぇにあいてぇよな気がする。


言ったじゃあねぇか、お前はよ・・・。

いつまでも一緒だって。



「ええ、いつも貴方のそばにいますよ。いつまでも・・・。」



さーっと雨音がする、あぁこれは何だ?



なんもかも、洗い流しちまうよな気がするるぜ。


赤い赤い血も、この身にのこったおめぇの想いも。



真紅の雨が・・・。


なぁ、おめぇこれは誰の血だ。


なぁ・・・。


2007/02/09