一番星、みぃ〜つけた。
「あぁ、綺麗・・・、一番星ですよ。土方さん」

「体に障る、なんでおとなしく寝てねぇんだ総司・・・。」

……。


「ひどいなァ、貴方にあいたかったんですよぉ」

「バカ、だったら呼べよ」

「やだなァ、お忙しい副長をそうそう呼ぶなんて〜。それに、そんなことしたら、皆さん困ってしまいますよ?」



「おれは、おめえに会いたかったらいつでも会いにいってるぜ? それにお前だって一番隊の組長で、副長助勤だ。会いたきゃ、よびだせ」

「あーあ、相変わらずだなァ歳さんは。二人っきりで会いたいって気持ち、すこしはわかってくださいよ」


「ふん、おめぇは昔っから嘘ばっかつきやがる。なぁ総司、おれはおめえの何なんだ?」


「ふふっ、知ってるくせに。私、ただ貴方と一緒にいたかっただけ。ね、あの星を見て・・・。あぁ綺麗ですねえ。そうだ、土方さん、何か詠んでくださいよ」

「・・・、ばぁーか、俺はなぁ、星ひとつじゃよめねぇ。へたくそ、へたくそ言いやがるくせに、なに言ってんだ」


「だって、きれぇじゃないですか。そうだなぁ、私には句を詠む風趣なんてないし、けどあなたと見た星だもの。ねぇ、いつかくださいね、あなたの句・・・。ほんとはすっごく好きなんですよ」


・・・・・・、好きなんですよ。

「フン、気がむいたらな。けど、はやく治せよ。おめぇがいねえと組のやつらが、怠けやがる・・・。」


「ははっ、歳さんはやっぱり優しいな」


「・・・、ばか言ってんじゃねぇ。ほんとにバカ言ってんじゃ・・・。」

「はい、はい、素直じゃなくって素直な、あなたが大好きですよ。また、一緒に夜空でも見ましょう。ね、土方さん」


ばかやろう、そうじのバカ野郎・・・。
おめぇは嘘ばっかだ・・・、ばかやろう・・・。


「土方さん、絶対またいっしょにみましょうね、一番星」



2007/02/05



情人。(不実)
私はなぜなのか土方さんと、斎藤がぬきさしならぬとこまでいってしまったらしいことにすぐに気がついた。


そうしてそのことに対して、
どうしてか、何の感情もおきては来なかった。


薄情なことに私は、ほっと安堵したくらいだった。
そう背中を押したのは本当は私自身ではないのかと、思うくらいに。

ただなぜ、土方さんは斎藤を選んだのだろうか。


それが先生だったならば、私の心はズタズタに引き裂かれ血が吹き出すように痛んだだろうに、やっぱりあの人は、私にとことん甘いのだな、と哂う私がいる……。



私はどちらも選べなかったのだから、ただあの人を詰ってつめよって

「貴方が好きだ、愛しい」と……。


もしくは「どうして? 一さん、ゆるして」

と、でも・・・。


二人が二人とも、私に甘すぎる。


あなたがた二人が、そうなってしまえば、絡みあってしまった糸もとけてしまうのだから・・・。


残るのは、不実な情人としての私の罪は消え、昔のままの慕わしい兄へのような気持ちを土方さんへ・・・。


そう斎藤には友愛という美しいだけの思い・・・。



そう私は男女の機微にも疎いが、男同士のそれにもうといらしい。



なぜか、晴れやかに微笑ってしまう・・・。

あの二人は、きっと私を憐れむのを忘れるだろう。


二人は二人して、私をもとめてくれたけれど。



それは本当に恋情だったのか、と私は今になって思う。

だって、私は体は繋げても何も変わらなかった。


私は何も変われなかった、こわれるままに抱かれ、乞われるままに抱く・・・。


だから、私は安堵する。



もう、私はむかしのままに二人を想えるのだから・・・。


そして、二人をやっと信じれるのだから。

私は必要とされたいだけ、で。他には何もいらないのだ・・・。



ふっと、土方さんの縋るようにまわされた腕と、真剣な斎藤の瞳を思い出した。

でも、それだけだ・・・。


今、私は……。

一瞬、何か脳裡をかすめたものを心の奥底に沈めた。


2007/02/03



さみしい月。
真昼の白い月が貴方の心のようだ・・・。


そう思う私は、もうアナタを愛して憎んでそれでも愛していた私では無いのかもしれない……。



さみしいのはあなたなのか、それとも私なのか?

アナタは今でも私の腕の中で、喘ぎをこらえながらも私の背に未練のように爪痕を残す。


けれど、あなたは白い月のようで。



私の命の紅さでアナタを真っ赤に染めてしまいたい。

私の体内からあふれゆく血で、あなたに私の毒をそそぎこみたいのに・・・。


なのに、あなたは昔のまま・・・。

「お前ぇが俺をいらねぇというなら、俺がお前をもってゆく・・・。おめぇが俺を憎いというなら、お前ぇが俺を斬れ・・・。」


貴方は炎だ、思いのままに私をもとめて。
膿むことを知らない・・・。


それなのに、きっと貴方はしらない。
どれほど、憎んでも愛しても私が貴方をもとめてやまぬことを・・・。



そんな貴方は、私のさみしい白い月・・・。

心も体もとうに、貴方のもの、私は貴方のものに。



あなたの炎は、決して私を手放すまい……。

あたたは、私をけっして私をはなしてはくれない・・・。



そんな寂しい人。


そして、私のただ一人の愛しい想いびと。


だから私は今日も、悲しい嘘をつく「もう、アナタなんていらない。もう貴方なんて・・・。」


それなのに今日も白い月だけが、私をこの世にとどめている。


哀しくも、厭わしくそして愛しい白い月だけが。


2007/02/01



梅が香。_付けぶみ
趣味は確かに悪い。紅梅が一面に染め抜かれてた、ソレ。


したが愛しい男のくれたもの。

その扇子を手遊びに、開いては閉じ、閉じてはひらく・・・。


無垢な子供のような情人は、いつまでたっても子供のようで。


今日も今日とて、明るい無邪気な笑い声がこの土方の私室まで届いていた。


いつも沖田の周りは笑い声が絶えない。


ふっと、歳三は笑う。

あの男は、それでもおのがモノ。


やすっぽくも、染め抜かれた梅に思わず知らずおのが腕の中、欲に濡れた若い男の体臭と、その眼差し。そしておのが身を貫く楔の熱さと、を思い出し。


何やら、不穏な心持ちになる……。


さらさらと土方は筆に紙をはしらせると、小姓に活けさせておいた白梅のひと枝を、すいと抜いてその紙を結ぶ。


くゆる梅香が、なぜか男に酩酊にも似た陶酔をもたらす。

すっと優美に土方は立つと、密やかに私室を後にした。


2007/01/30



可愛いぜ。
「はじめちゃん、どうしたのよ? シンキくせぇなぁ」

沖田はけたけたと、無遠慮にのたまう。


斎藤の表情は変わらない、いつも変わらないのに。なぜか沖田は斎藤の心の動きに聡い・・・。

全く、たまったものでは無かった。

「・・・。」

「なによ、言いたくないんならいいけどさぁ」

「別に」

ふーん、あっそと言った沖田だが、とんと斎藤の肩をついた。


「斎藤先生、いっちょヤりますかぁ〜」

小憎らしいもの言い、だが沖田の目はまっすぐ斎藤を射る。


「真剣ならば」

「ほぉ、お珍しい。死にたいのかね、一くん」

「まさか、お前なぞに遅れをとるものか」


くすっと、沖田は笑うと雰囲気を変えて

「なぁ斎藤、やっぱりヤろうぜ」

「道場へ行く気にはなれん」


「ばーか、コッチだよ斎藤せんせっ」

無邪気に沖田は言って、ぐいっと腕を引っ張りおのが方へと、斎藤をひきよせると「まったく、鈍いったら、お前ってやつは。ま、そういうとこも可愛いぜ」


2007/01/28



サムライ。
大鳥の心は重く沈んでいた。


戦場にあって、はったりをきかす男だが。
こうも戦況が行き詰れば・・・。


それに幾人の者たちを死なせたか、戦火のもと自軍や敵兵のみならず、罪無き多くの者たちも死んでいった。

だが、まだすべきことは残っている。
兵たちを鼓舞し、労わりそして榎本を支えねば。


それに、まだだ。

それが、死んでいった者たちへのせめてもの手向けだ。


ふっと、いつも気は合わなかったが優秀な軍師で侍たらんと懸命だった男のはりつめた横顔を思いだした。

「やれやれ、君と私とは正反対だな。だが、私は君が嫌いでは無かったよ」


最後の酒宴で別杯を交わした日、彼は何を言ったのだっけ?

あぁ、あの日は怒りもせず飲んでいたのか・・・。

だが・・・。

「大鳥さん、あんたは死ぬな」酷い言いようだ、そう、そうだった彼はそう言ったのだったな。


そうだ、私は侍ではない・・・。

だが、君は・・・。


あがいてみせるよ、最後の最後まで。


そして、生き恥さらすも私には似合いだ・・・。


武士は花のごとく散るもの、ならば君はまことの花だな、なぁ土方・・・。




2007/01/28



月の影にて。
伊庭はすっと視線をずらし、横たわり情交の果てに気を失った男を見遣った・・・。


甘い睦言をつむぐ己のこえ、とおのが背に男の必死にたてられた爪。

ふふっと、伊庭は笑う。


色濃い情交の痕を残した男の白皙の美貌。

つれない人だ。


体は幾度つなげても、心は無いのだ。

そのことを伊庭は知っていた、しっていた・・・。


いつからか、そうあの淡い輝きを宿す瞳を見てしまったとき、に。



そうしてなにゆえか、今伊庭は土方を・・・。


誘ったのは歳三のほうだった。


「しょうもないお人だ、そんなに苦しいのかぇ・・・、ねえ歳さん」馬鹿な人だ、そう冷めていく心の中でも伊庭はなぜかやはりいとおしいと、思った・・・。


そう、ただいとおしい。

「ふふっ、もう二度とはあのお人は歳さんを許さないねぇ。きっと・・・。」

バカなお人だ、と呟きながらも伊庭は愛しげに歳三の頬をその指先で、ひたすら柔らかく慰めるようにたどる・・・。


「あぁ、おいらもバカな男だねぇ」
伊庭は苦みのある柔らかい含み笑いを思わず立てた。


それでも、伊庭は優しく土方の頬をいつまでも撫でていた・・・。


儚い幻のような恋も悪くは無いと、自嘲するように。



2007/01/28



かごめ、かごめ。
今日も沖田は子供らをあつめてあそぶ。


新選組の一番隊を預かるような男にはとうてい見えない・・・。


籠の中のとりはぁ、いついつでやる〜。

明るい子供たちの歌い声は、空に吸い込まれるようにあたりに響く。


籠の中の鳥、子供らに囲まれて沖田はしゃがみこんでいる。


うしろの正面、だぁれ?



無邪気な子供らの歌い声に、しゃがんだ鬼。



はっと土方は目を開けた。
沖田は、今ここにはいない。


突如、白日夢のように浮かんだ情景だった。



総司・・・逝ったのか・・・。

男はしばし自失した。


かごの中の鳥は、いついつでやぁる〜。

こだまするように、その高く澄んだ歌声が歳三の耳をうつかのようだった。



うしろの正面だぁ〜れだ。




2007/01/26



恋の不思議。
ひょいと軽い足捌きで、いなすように男は身をかわす。


かわされた方もうろたえはしない、薄い微笑をうかべ木刀を下ろした・・・。

「総さん、お前さん何のつもりだえ。いささかぁ、理にかなっちゃあいないねぇ。そういう野暮はよしておくれな」

「ここには、今あなたと私しかいないんですから。よいでしょう、相手してくださったって・・・。」


伊庭八郎は美しい顔をゆがめると


「ああ、二人っきりさぁね。ただね、今のアンタは本気で打ち込んできなすったね、沖田さん」

「ええ、本気ですよ」

「オイラに抜かせたかったのかぇ、闇討ちとは穏やかじゃあない。しかも真剣相手だ、酔狂としか言えやしないものさね」


「ふふっ、酔狂ですか? さすがいなせな若旦那だ。八郎さん、こういうのも執着なんでしょうかねえ。私、あなたを一目、見たときから、こうしたかった気がするんですよ・・・。あなたが嫌いなんでも、憎いんでもないですけど、ね」沖田は無邪気な子供のような声で言う。


伊庭は健やかな笑みを、その白皙の美貌に浮かべた。

「ほぉ、ソイツは光栄。オイラてっきりお前さんの眼中になぞ無いものかと、思ってたヨ」

まさかという風に沖田は伊庭に近付いて、その顔をのぞき込む・・・。


ほのかな月明かりの下でさえ、伊庭の顔はやけに美しい。


凝っと見つめ合う二人の瞳に、互いの顔が映る。その表情の隅々までも・・・。


淡い微笑と柔らかくも苦い笑み、互いに二人は美しい笑みを浮かべていたのだった。


沖田は言う「わかりましたよ、けれど私はこの気持ちに名前はつけたくは無い、ですね」


おやというふうに伊庭は表情を変えて「そいつは有難いもんだねぇ、オイラの命は今の総さんにゃ渡せやしない・・・。」

だがぐいと伊庭はそう言ったそばから沖田をその腕に引き寄せると、柔らかく沖田の口を吸いその歯列を割った、そして思うさま犯すように蹂躙しつくした。


離れたあとの二人の唇から細い銀の糸がひく。


「おや、まぁこりゃ見かけによらないね。総さんなれておいでだ」

含み笑うと沖田は言った。

「えぇ、そうですけど。若旦那はご存知だと思ってましたよ」

「ふう、オイタはいけないよ総さん」


わかってますよ、と沖田は応えた。


とんだ闇討ちさぁね、と八郎は笑みを含んだ声で言うと沖田の前を悠然と去っていった。

これが、沖田総司と伊庭八郎とが会った最後の夜。

その後、江戸でも京でも二人が出会うことは、二度と無かった。


2007/01/24



落陽。
貴方の冷たい指先に私の心は、妖しくも哀しくも翻弄される。


貴方を支配し、熱い私の躯でアナタをとかしたいのに。

抱かれているのは、本当は私……。


私の熱い吐息をあなたに吹き込みたい。


わたしの命をあなたに刻みたいのに。


貴方の心は、もう私の上には無いのです・・・。


貴方を犯しながら本当は侵蝕されつくして、泣けぬ涙をこぼすのは私・・・・・・。


あなたは知らない、あなたがもう私を愛してはいないことを。



差し込む冬の落ちゆく日差し、ほのかに浮かぶ貴方の白い白い肌に私は赤い赤い真紅の花を刻むのです。


恋の残り香を探すように。


2007/01/23



満天の星。
今夜は月が無い。


なんて冷たい夜・・・。

北の果ての満天の星。


今夜は月が無い。


すっと長い外套をはおり、歳三は夜空を見上げる。


ふぅと息を吐く。その息はしろく、何かを思い起こさせる。

己に過去を振り返る、ありかなぞありようとは・・・、それでも月が無い凍てつく蝦夷の夜はどこかせつなかった。

かつての土方ならば、ここで一句と思いもしたろう・・・。
したが、何も思い浮かばなかった。


そんなゆとりも感傷も許さぬ凍てつく大地。


(貴方は月、私はその影です)


無邪気に、ふいに耳をうつ声を聞いた気がしたが。


なァ月も影なのさ、そう歳三は思わずのようにつぶやいた。


「総司、ここはきれぇだ。なんもねぇのサ。」あるは夢の残り火ばかり・・・。


あぁ、ほんと綺麗ぇだ。真っ白の雪と満天の夜空。
人が人であるのに、ほかのもんなんて何もいらねーな。


なぁ、お前・・・、今もおれの側にいるんだろ?
なら、おめぇなら、なんて言うんだ、なあ? 教えてくれよ。


(わぁほんと綺麗ですね、まるで星ん中に俺たちしかいないみたい。歳さんと俺だけ・・・。ね、歳さん)
 そんなふうに無邪気におめぇなら笑うのか?

なぁ? 総司・・・。



フッと土方は皮肉な笑みを片頬に浮かべた。

お前、そんな優しいだけのやつじゃなかったなぁ。あー、かわいくねぇ・・・。

けど、たまには慰めてくれよ。


一人で見るんじゃもったいねえよな、景色だ。下手なうたも浮かばねえよ。なァ総司・・・。

 


2007/01/22



(続) 明日の今日。(四)
おれは、今ふわふわな心で。

どうしようも無く、あの人を思ってしまう。


柔らかい笑顔、美しい横顔・・・。

嬉しかったから、あたたかったから。

あんなふうに抱きしめられて。


ドキドキして苦しかった、ささやくような言葉。


甘い、甘い言葉。


けど、けど、おれはばかかもしれない・・・。


だって、知らなかったから、恋なんて。
知らなかったから。


「好きだよ、宗さん」

けれど、こんなのって。


あの人らしくなかった、おれはちょっと不安で。


ううん、かなり不安で。だって、わかんないよ。


貴方の気持ち。


……。


それに・・・、おれってズルイ。

歳さんに嫌われるのは、もっと怖い。


ねぇ、なんで、おれが好きなの?


けれど、やっぱりおれ・・・、好きになっちゃったんだ。


きっと、たとえもう歳さんがおれを・・・。


あぁ、わかんない。
ねぇ、わかんないよ。


けど、うれしかったんだ、ぎゅうっとされて・・・。

ほんとに、嬉しくって。


おれの心はふわふわしたまんま。


ねぇ、おれってバカみたい・・・。


2007/01/20



(続)天蓋の花。
冷たくも優しい指先だった。


男の凍えた心を慰めるように・・・。

さみしい、さみしい、さみしい。

それは誰の心なのか、もうそれすらもわからない。

うつつの夢、ゆめの現……、ただ淋しい。


夜毎、よごとに影は訪れては果敢なくも消えてゆく。


ただ、その握りこまれる指先だけはせつないまでに優しい。



目覚めれば、それは一睡のまぼろし。

この、未練はどちらのものなのか。


この世に若い恋人をとどめているのは・・・。


それでも、瞳を閉じればあの俤が淡く浮かぶ。


未練と知っていながら、とうとう最後の最後まで需めた。


なのに、もう知っていた咲き乱れる赤の花の意味を・・・。



それでも男は、夜が明けるたびに一人泣く。

あの赤は、罪の香りのする恋の果て。


したが、もう摘むことのかなわぬ花だった。


二人を永久にわかつ、彼我に咲いた花なのだった。


涙を流しながらも男はしっていた、もう二度と再びあうことはかなわぬ情人。


まなうらに咲く紅は、その証。



それでも、やはり涙はこぼれた。


この花が咲く限り・・・。

いとおしい、あの世の花。


2007/01/19



人斬り。
沖田総司は、冗談ばかり言ってはいるが。人の心の動きに聡い若者で、今日もひっそりと目のまえの男の不機嫌に気がついて軽くため息をついた。

当人や周囲は、どう思っているか知らないが沖田にとっては斎藤一はひじょうに、わかり易い男であった。


たとえ、それが斎藤にとっては甚だ不本意だったとしても・・・。

やれ、物騒なもんだ、と思いつつも。


思わず、くすりと笑みがこぼれてしまいそうになる。


それを感じたのか、殺気だった気配が男のほうからした。


だが、珍しいなと沖田は思う。
どんな仕事も黙々とこなす男だ、何かあったのかしらないがそれを沖田に悟られたくらいでは、常の斎藤ならば腹をたてたりはしない。


下手な慰めは、逆効果だったが妙に気になった。


「斎藤せんせい、どしたのさ? お前らしくもない」

軽さを交えた間伸びた口調で、とぼけたように問うた。


「……。ふぅ、アンタはイヤな男だな」いささか本気の雑じった声音で、それでも先程みせたような剣呑さは消えていた。

斎藤らしくない弱音の吐きように、藪蛇だったかと一瞬思った沖田だったが、まぁたまにはそんなこともあるかと、僅か構えた。


「沖田、心配しなくとも。愚痴ったりはせんぞ、おれは」

ふぅん、と生返事して「何なら、さっきのは何よ」とちゃかす。

「すまないな、時々あんたはむしょうに腹の立つ男でな」というと斎藤は苦く微笑する。


素直な男だと、沖田はまたくすと笑ってしまう。

「何がおかしい?」

「いんや、なんにも。ね、けどさ一応トモダチだろ、俺はあんたが好きだなァ」と思ってかなァ、と続けた沖田に斎藤は呆れた。


「まったく、スジが通ってないぞ」

「ん、いやいや、通ってますって」


そんなふうにたわいない話が、心を和ませたのか。
斎藤の雰囲気はいつのまにか、変わっている・・・。


沖田はにっこりして「お前、いい奴だなぁ。ま、バカみたいだけど」

斎藤のほうは怒ってもいい気もしたが、なぜか沖田に毒気を抜かれて。

「それは、褒めてないぞ」と、珍しいほどやわらかい声で言った。


斎藤は「なぁ、沖田。あんたは悩まんのか?」

「ばっかだね〜、斎藤。悩んでたらこんなこと出来てないデショ?」沖田の声はあかるく、表情は笑みを浮かべている。

今日、沖田は、隊内にあったものを斬ってきたばかりだった。


「そうだな」と、こごえで斎藤も答え哂った。

沖田の底抜けに明るい笑みと、その斎藤の笑みは奇妙にも何処か似ていた。


2007/01/18



情人。(風花)


あァ雪が舞っている。

散りゆく桜花のように、ふらりひらりと。



視界いっぱいを。

あの男の生き様そのままに。

魂の全て、もってゆかれてしまいそうだ。



そうだ、俺をもってゆけ。
お前のおらぬこの世なぞ。


なんの意味があるものか……。


生ける屍となり果てて。



したがお前は笑うだろう、昔のままに。

むかしのままの、屈託のない無垢にさえみえる子供の笑みで。

お前は来るなと、笑うだろう・・・。



願わくば、無限の果てに。と、ただこいねがわん。

吹き散る花の如し、風のように。・・・、と。





あぁ、なんと果敢ない淡雪。


あかい陽射しに散る花、友よ。
わが愛し、とも人。





2007/01/15