『剣』
沖田にかなう者なぞ、この世にいないと若い頃の俺は思っていた。
まだ俺たちが、人を斬るようになるのが当たり前になる、ずっと前。ちかくて遠いような昔、沖田は誰よりもつよい男だった。
いいや沖田が不治の病にたおれた今となってさえ。きっと、俺はそう思っている。
「なァ、斎藤。もう来るな」沖田は昔のままの笑顔でひどいことを言う。
随分と痩せた。
そして昔は浅黒かった肌も今では血を吐く病のせいか青白く見えた。
しかし、その明るいような不思議と透明な笑い顔はそのままだった。
だのに、もう来るなと言う。
俺たちは剣のみで繋がれた仲間のひとり・・・。
だが、俺の未練を憐れむ様に沖田は哂う・・・。
斎藤、おれはもう刀が握れない。
だから、もう来るな。
ほんとうに酷い男だと俺は
思った・・・。
俺の気持ちをすべて知っていて。
「未練だよ、斎藤・・・。」そう言って沖田は残酷に微笑んだ。