下手糞な手紙


夜も更けた箱館山の戦場で、全員がつかの間の休息をしているなか、土方は自分のポケットの中から一枚の紙を取り出していた。





それを見て、わずかに微笑む。









しばらくして、土方の小姓を勤めていた市村鉄之助を呼び出した。

そして自分の形見を託した。

「これを、多摩の佐藤彦五郎宅に届けてくれ」

「嫌です!!私も最後まで一緒に戦います!!」

土方が自分の最後を悟っているんだと分かった。

「お前に託したいんだ、この大役を。俺達のやってきたことをお前が後世に伝えるんだ。やってくれるよな?」

「俺には勤まりません…なぜ俺なんですか?他の方でもいいじゃないですか!」

「…お前には未来がある。だから死なせたくないんだよ。だがここで死にたいと言うならこの場で俺が斬る」

土方の目は本気だった。

「…必ず…必ず届けますから、伝えますから…だから絶対に死なないで下さい」





その夜、市村は他の隊士達に気づかれぬよう、山を降った。









土方は敵地が見える木陰で、ポケットから紙を取り出した。

それは一通の手紙だった。





そこには覚えたてのたどたどしい字が書かれていた。

写真や短歌集は市村に持たせたが、どうしても最後まで持っていたかった。













あのひ、俺にくれた下手糞な手紙





俺はそれに何度も勇気付けられた

















それはまだ土方が試衛館に入門する前のこと。

奉公へ行っても上手く行かず、薬の行商も本腰が入らず、何をやっても駄目だった。

そのことで姉にこっぴどく説教をされて落ち込んでいた。

そんな様子を勇が宗次郎に話したのだろう。息を切らせて一通の手紙を持ってきた。

『それじゃぁ僕お使いがあるから』と、恥ずかしそうに走っていった。





手紙を開いてみると、そこには









『歳三さんの好きなところ

・ 竹刀を持ってるすがたがかっこいいところ

・ ひねくれてるところ

・ おんななかせなところ

・ ケンカが強いところ

・ 若先生のしんゆうなところ

・ けっこうさみしがりなところ

・ ボクのめんどうを見てくれるところ

だから僕は歳三さんがずっと大好きです。』









そう書かれていた。

まだそんなに沢山の字が書けるわけでもなかったのに、一生懸命に書いてあった。

宗次郎なりの励ましだったのだろう。





なんだか変で下手糞な手紙なのに…。

なぜか涙が出た。





なにがあっても、自分は歳三が好きだと、そう言ってくれている気がした。





だからなのか、ずっと捨てられずにいた。

















―懐かしいな





―会いてぇな…あいつらに









常に死を覚悟する毎日の中で、この下手糞な手紙が、強さをくれた。





だから俺は鬼にもなれた。









―俺にはこういう生き方しか出来ねぇけど









戦から戦へ渡り歩いていく、戦場でしか価値を見出せなくなっていた。









―あの世でお前らに笑って会えるように、生きるからさ…





―まだ俺の味方でいてくれよ






※「黒と赤の残像」様の10000HITフリーの、お話ということで頂いてきちゃいました〜!!!
宗ちゃんの可愛い手紙を捨てられなかった土方さんの、とっても切ないお話です〜・・・。
ずっと、心はそばにあったんですね、と言いたくなるような、涙の滲んでしまうようなせつなさ、好きです・・・・。