初手合せ




今夜は、眠れそうにもない。どんな場所だろうと、何があろうと滅多にそんなことのない斎藤だった。
だが、今夜ばかりは違った。
頭が冴えてしかたなかった、そしてしきりと今日立会ったばかりの男の顔ばかりが思いだされる。

ひょんなことで、意気投合した男につれられてある田舎道場につれてこられた。
そして、年も近いというので、そこの塾頭であるという男と立会うこととなった。沖田総司である。
背の高い色黒の男であった。にこにこと笑顔で近づいてきて挨拶する。

この男、この若さでそのような立場にあるのだから弱いとは思えぬが。これから立会おうというのに、
まるで
飄々としている、斎藤はいぶかしい気持ちになった。というより、がらにも無いがムッとした。


ところがである、強いと感じる間さえなく踏み込まれ、突きを入れられ、一本とられた。
これは、とたてなおした
二本目も同じ、たいてい三本目は勝ちをあいてにもたせるものだが、沖田という男はそんな気すら
ないらしい。
凄まじい殺気であった。かろうじて斎藤は受けた。そこからは力が拮抗したのか長びいた。

「それまで」

声がかかって、はじめて我にかえった。沖田を見遣れば、息ひとつ乱していなかった。悔しい。
こんな思いを
するのは、はじめてではなかろうか、息をつきながら斎藤は思った。

「いやぁ強いなァ、あなた。こんな強い人がいるなんて。これから宜しくお願いしますね」

屈託なく沖田はにこりと笑い、片手でつるりとそのおのが浅黒い顔を撫でた。


それが、後年ともに新選組の幹部として、命を預けあうこととなった二人の出会いだった。