蝦夷





土方歳三は、京での風聞と苛烈とも思われる戦法をとる男で
ここでも大層なものであった。が、それにしては以外な趣味がある。
発句であった。


ここ、これに関しては。愛想なく、ぶっきらぼうに誰に対しても

「いや、俺のは先生方に見せるようなものでは・・・」と、
もごもごと言葉を濁していた。


うっかり部屋内で落としたのか、今その発句帖が大鳥の手にあった。
土方は朝寝を好むような男ではない、かといって大鳥自身が
さぼっているわけではなく。
土方は軍をまとめることに喜びを感じる男である、指揮官の一人で
ありながら、だれよりもはやく起きて調練に出ていた。


土方の本意は、しれないが今、大鳥はなぜか土方の情人であった。
さて、困った。句帖を手に逡巡したが、好奇心が勝る。大鳥は
気になったことを、ほおっておける性質の男ではない。
こと、仮にも恋人。ぶつぶつ、頭の中で言い訳しがらも誘惑に
負けそうである。


いくら閨で、たわむれにたずねてみても。
発句のことは禁忌らしく、さらりとはぐらかされてしまう。


土方くんが戻ってくるまえに、それに大鳥も総裁の榎本より
呼ばれていた。


誘惑に負けて、さらと捲ってみた。
土方のうたというのは・・・。


なぜか、ただ微笑ましい気持ちになった。
そして、なぜあの男に恋したのかわかったと、大鳥は笑った。
ずっと、己の恋情がわからなかったのだ。惹かれてはいた。
ただ、なぜなのか。だが・・・。今は。
だから、大鳥は心のそこから笑い、彼が好きだと思った。

彼は、なんという人だろう。


その句のように、まっすぐで。嘘のない人だ。
あぁ、土方くん生きましょう、必ず。

洋装に着替え、帯剣をしながら大鳥は鏡を見た。昨夜の情人の
瞳が自分の心に移りこんでいる気がした。


蝦夷にも花が咲くのだそうです、ハラハラと桜の舞う姿を思い
うかべました。
桜を、きっと見にいきましょう。
そのとき、句をつくってほしいと、ねだってみたいものです。
気持ちわるいと、口悪な言葉でてれる貴方が目に浮かぶようだ。
きっと、いきましょう土方くん。


桜はきっと、貴方のように美しい。
蝦夷の桜は貴方のように華やかに咲くでしょうね。


ああ、そろそろ時間だ。出なければ・・・。
すっと、桜の面影をふりきるように大鳥は部屋を出た。