一体なんだというんだ!


何が榎本君のお気に入りだ!!


何が土方歳三だ!!!!!


___気に食わないやつだ


だというのに…だというのに____!!!!



<知らぬが鳥>



僕は廊下を早足で歩いていた。

どうしよう。

これは何かの策略だろうか。

女房役である存在、僕のコンビである陸軍奉行並が…


ひ、ひ、ひ、土方君だなんて…。





始めて見たときから、カチンと来る奴だったんだ。


顔がなまじ綺麗なだけに、きつい一言がグサッとくる。

宇都宮にいた時だって、足を撃たれたというから、僕はもう心配で心配で、わざわざ時間を作ってまで見舞いに行ったというのに。

土方君ときたら、僕が体調を崩して戦いに参加しなかったことについて文句を言ってきた。

挙句の果てには

「こんなところに見舞いに来る余裕があるなら、体調を整えて戦え」

とまで”高飛車”な態度で言われたのだ。



榎本君は、どういうわけか彼を非常にかっている。

仙台では、なんと彼を総督に推挙してしまったり!尋常じゃないよ、もう。

きっと土方君のことだから、「利用できる奴だ」くらいにしか思ってないに決まってるさ。



いつだって、僕でなく土方君が人気者なんだ。

顔もいいし、戦略に長けていて、みんなの憧れの的だ。

なんだかいつも護衛(守衛新選組)をつれてるし…。

ひ、ひがみじゃないぞ。



僕は、その守衛新選組にもっとも嫌われているらしい。

まあ、自分の尊敬する者が僕を嫌っているんだ、仕方がないけど。



…と。

部屋に戻っても落ち着かなくてうろうろしていたところに、コンコン、とドアが叩かれた。

こんな時に誰だ、今それどころじゃないのに。





「___大鳥さん?土方です。」



ひじかた??

土方!?


な、なんだってーーーー!!!?



「ちょ、ちょ…ちょっと待っててくれ!!今準備を…」


なんの準備だ、しっかりしろ、大鳥圭介。

駄目だ、気が動転して上手く頭が回らない。


何の用事だろう…


今日の結果に対して

「なんでこの俺がお前なんかの下につかなきゃなんねぇんだ!」

とか、文句つけるつもりなんだろうか。


それとも、会議が終わってそそくさと出てきてしまった僕に、

「(嫌々ながら)”一応”奉行と奉行並いう組となった私に、挨拶もなしに出て行くなんて、相当不服なんでしょうなぁ」

と、嫌味たっぷりに言われるんだろうか。


それとも、今まで考えてたことが、気づかないうちに声に出てしまっていて、それに対して文句をいつつもりなんだろうか…。



…悲しいほど思い当たることがありすぎる自分が情けない…



と、とりあえずドアを…

どきどきどきどき。


そうっと扉をあけると、そこには着流し姿の土方君の姿。

いつもと変わらぬ整った顔立。

しかし、無表情を崩さない顔で。

おまけに自分よりも幾分か背が高いぶん、これだけ間近にいると威圧感が高い。


「や、やぁ土方君…このたびはどうも…」


何言ってるんだ自分ーーーー泣



「___大鳥さん」



きた___


「これも何かのご縁ですね。これから、どうぞよろしくお願いします」



・・・へ??

ひ、土方君が

僕に・・・

頭を下げているーーーーーーー!!!!!???




夢か??

夢なのか??

今まで何度この夢を見続けたことか!!!!←情けない



「???大鳥さん??」


___はっ、ついつい呆けてしまった。

慌てて彼をみると、小首をかしげている。

なんだ、よくよく見れば優しそうな面持ちをしているじゃないか…


「こ、こちらこそ、よろしく頼むよ!頼りにしている」

焦っていては情けないので、少し上司ぶって言ってみる。

手を差し出して握手を求めると、土方君は微笑してそれに応じた。



この「投票制度」というやつは、神様からの贈り物か?





と、そのとき。

「__副長!!!!」



む、誰だ、僕たちの友情成立の美しき瞬間を壊す奴は。


「なんだ、野村。大声で呼ぶなといつも言ってるだろう」

土方君がまるで母親のようにたしなめるのは、守衛新選組の野村利三郎。

またこいつか…この野村って奴は、僕のことを目の敵にするんだよなぁ…

野村のやつは、土方君の言葉を曖昧に笑ってごまかした。

そして僕のほうに向き直ると、いつものようにギャンギャン吠えた。



「あ!てめぇ鳥!!副長に何してんだこの野郎!!」

な、なんで怒られるんだよ…

別に何も…

「なんだい君は…僕は」

「野村、吠えるな馬鹿。大鳥さんは俺の上司だ、そう牙をむくな」




・・・・・・

土方君が…僕を…

かばった!!!!???



きょ、今日は奇跡がよく起きる日だ…




「すみません、いきなり…」

またしても呆けていた僕をみて、野村を追い返した土方君は謝った。


「いや、いいんだ…それより…僕はてっきり君は僕が嫌いなのかとばっかり思っていたから…ちょっと驚いた」

正直にそう言うと、土方君は少しむっとしたような顔をして、わずかにうつむいた。


「べ…別に嫌いじゃ…ない…」

そういうと、いっそう下を向いてしまう。

僅かに肩が震えている、まさか照れているのか??



神様、今日という日をありがとう。

僕は土方君という人物に対して、誤解を招いていたようだ。

彼がこんなに穏やかで可愛げのある人だったなんて…







このとき、土方が

「この人…いい暇つぶしになりそうだ…」

と、うつむきながら笑いを堪えていたことを、大鳥は知らなかった。







「それでは、私はこれで」

それから僕の部屋で5分ほど話をした後、土方君は席を辞した。

着物姿も、また随分と似合う。

「そういえば、その着物は…」

「ああ、これは…松平さんが普段着用にと…」


…松平君、いつのまに。



「…?なにか?」

「…いや、いい着物だなと思って」

本当に…いくらしたんだろう。

これからいろいろ金がかかるというのに。


「ああ、私も気に入っています。では、これからも”今までどおり”よろしくお願いしますよ」

そういって微笑すると、土方君は部屋を出て行った。







これから来る、「今までどおり」を越えた日々のことは、まだ大鳥は知らない…


FIN.



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『甘味処と梅一輪』様から「1043番」踏んでいただきました。
恐れ多くも副長を踏み、可愛い大鳥さんいただきました。くろみつ様、本当にありがとうございました!!