霜焼け



 おれは、盗み見るようにその指に見惚れた。
同い年だが、いやに洒脱で柔和な男……。

 伊庭の指は白く、のびやかだったが剣ダコができていた。
だが、うつくしかった。

 なにやら、自分の手をみて淡い溜め息がもれた・・・。


うつくしいユビ、柔らかい笑顔、やさしい口調。


あの指先がそっと、おれの手を痛ましげにとりやわらかくささくれたおれの指を静かに慈しむ様はどうしようもなく切なかった。


あぁ・・・。


そして、おだやかにやわらかく、おそらく高価な軟膏だろう。
それを愛撫のような執拗さで指先に塗りこめた。


「おいらはネ、こういうお前さんの掌が好きでネ」

伊庭はすっと宗次郎の手を離すと、負け惜しみのようなてれたような声で哂った・・・。
口元には似つかわしくないような皮肉な笑み・・・、だが瞳のいろあいは驚くほどやさしかった・・・。

なんてことはない遠い晩秋のおもいで。