2006/07/16
桔梗。

土方は沖田の変化が、何故なのか。

わからない。

しかし、沖田総司は昔と違ってきてしまっている。
表面は何も、かわっていやしないように見えるだろう・・・。
恐らく、沖田自身も気付いてはいないのか。


後悔はしていない、必要だったのだ。


だが、この修羅に土方が沖田をひきこんだと思うのは驕りだろうか。
沖田自身が望んだのだ、と。

思いつつも。

そして沖田を想いつづけてきたという、自身に土方が気付いたのは。
沖田が変わったと、思いつつ。
何もできぬ、無力を知ったからだ。

沖田は昔のままに笑い、昔のままに
土方の前でも皆の前でも、在る。


だが、何かが違う。

ふっと何のおりかは、忘れたが沖田の言葉を思いだした。

「私は幸せです。とても・・・。ええ、とても」

陽気な若者ににつかわしくないような、それでいて沖田らしいような、言葉にはできない声音だった。

柔らかい風がふいに吹いて。
沖田のかぼそい様なもの言いが、より、いっそうせつなく聞こえた気がした。


土方は、なぜか活けられていた花に目をやった。
殺風景な場所に、ただ一輪だけ。

桔梗・・・。
あぁ、きっと活けたのは。

らしくない。あいつは、そんな男ではないはずだった。
感傷と思いつつも、
ただ不思議な空虚と、言い知れぬ情動が土方の心を揺さぶった。



2006/07/14
妬心

「沖田さん、副長があんたを見てるぞ」

いささか気がかりというていで、斉藤一が横で気楽そうに敵娼から酌をうけつつ旨そうに、つまんでいる沖田に言う。

「何です? 一さん、野暮はいいっこなしですよ。って飲み過ぎたあとのアンタとやるのもわるかないですがね」

「そうじゃあない、わかっているんだろう」

「おやぁ、そんな心配しなくったって。それにね、あの人に何人馴染みがいると思うんです。しってるでしょう、片手じゃ足りない。お互い承知なんだから」


くすくすと沖田は笑いながら
すっと斉藤の手におのがそれをのせた「ねぇ、何がそんなに気になるのかなぁ。一さん」

「沖田さんっ」

「慌ててます? あれま、不可解。不可解」

今度は大きくからから、笑う。


睨む土方の視線がいっそう険しくなったのは気のせいか。
いや、そうじゃないだろうと斉藤はなんだか冷や汗をかくような気がして落ち着かない。

「どだいねえ、俺とあの人はそんなじゃないですよ?」

「沖田さん、さっきから言ってるのは・・・」

「うーん、わかんなくもないけど。取り越し苦労ですってば。好きでしょう、呑みましょうよ、一さん」


斉藤、沖田が副長の土方とただならぬ仲と知ったのは、ずいぶん前のこと。
ただ、沖田。心底、なにを考えているのやら・・・。
ふうと溜息をつきたくなる。

「一さん、いい人がいるんでしょ? 今夜はどうします?」

「沖田さん、あんたはどうする気だ」

「もちろん、戻りますよ。アンタとやるのは楽しそうだ」

愉快そうに沖田は笑って言っている。

「ばかな、いくら何でもあんたと斬り合いなんぞしたら、こっちが危ない」

「おやおや、たまには俺とつきあってくださいよ」

「第一、そんな物騒な目つきの男とやりあうほど命知らずなものか・・・」

「お堅いなァ、まあでもそんなとこもアンタの良いとこですかね」

雰囲気をからりと変えて沖田は陽気に微笑んだ。



(一さん、土方さんが睨むのは女のせいじゃないなァ。きっと・・・。ま、いいですけどね)

沖田はひっそりほくそえむ。



2006/07/13
情人。(てふてふ)

斉藤は、うっそりと重たげに目蓋をあげた。
昨夜一睡もしていなかった目には、夏のジリジリするような陽射は針のように目を射た。


大きな捕物の後、出た褒章で皆ででかけたのだろう。
ぼんやり、縁側に腰掛けているような者は他におるまい。
ふだんは、いずまい正しく。
着くずしたりもしないような男が、
すーっと呆けたように、外を眺めていた。

白い蝶が、ひらりひらりと遊ぶように流れ飛ぶのを
見ながら、斉藤は知らずある男の姿を思った。


美しい剣なのだ、さながら戯れに人を斬ってさえいるのでは、
と思う程。
昔、あの男の剣は激しく荒々しく漲り苛烈なまでに冴えていた。

だが、今の沖田の剣は。

まるで舞うように、軽やかで。
その齎す死さえも慈悲に見えるかのようだった。


沖田の剣は変わった。
剣が変わったということは、沖田自身も変わったということ・・・。


ゾクリと欲にぬれた沖田のマナザシを思いだした。
暗く静かに響く喘ぎを。
おのが胸に預けられた薄い重みを。


あの白い蝶は、姿は麗しくとも毒なのだった。
斉藤一にとっては。



2006/07/13
拍手やコメントへの。

※沖田さんもてもてで嬉しいです。私も沖田さんがモテな話が大好きなので!!そうおっしゃってくださって、うれしかったです。明るい三角関係、がんばります☆
また、続きゆっくりかもしれませんが書きますね〜♪
ぜひよかったら、読んでやってくださいまし。

ご感想ありがとうございました!


※拍手おしてくださるみなさま、メッセージ書いてくださる皆様。
ほんとうに、励みになります。
これからもがんばりますね☆
有難うございました!!!



2006/07/12
恋って、どんなものかしら・・・。

「宗次、たまにでかけねーか。」

初夏の風が涼しく、そよいでいる。
なんとなく宗次とこんな日、にぶらぶらとでかけるのも悪くねぇなァ・・。

歳三はのほほんと、思っていた。

普段は、ふたつ返事の沖田はちょっと困ったように。
歳三を見て、よわよわしく笑った。


「ごめん、歳さん。伊庭の若旦那に誘われちゃったんだ」
いまさら、断りにくいしとか・・・。ブツブツ宗次郎はなにやら言っていたのだが。


歳三のアタマは真っ白だった・・・。
伊庭の若旦那に誘われちゃったしか、頭に入ってこなかったのである。

誘われただとぉ・・・。まさか、まさか。とっくに、宗次と伊庭は、宗次っ。
混迷のあまり土方は何も聞いてなかった。
そして自分じゃ気付かなかったが、涙目である。

「えっと、歳さんも行く?」

ハァ??
ふいに我にかえった、沖田は無邪気ににっこり、笑っていた。


へっ、今度こそ、歳三は固まった・・。
わかっているのか、いないのか。

「えっとね、おいしい甘味のある茶店なんだって。歳さんも好きだったでしょ? 甘いもの」


なんとなく、へたりこみたい気持ちの歳三だった・・・。

(伊庭八郎、思った以上に手強いかもしれない。)


そして宗次郎、二人の男の気持ちなんぞ気がついちゃいねぇのか。
それとも・・・。

それ以上、歳三は考えるのをやめた・・。



2006/07/11
情人。(清風)

「みやげです。」

「総司、なんだ。いきなり」

沖田総司がふらりと呼びもせぬのに副長室に入ってくる、いつものことなので、土方のほうも文机から目線もあげずに、答えた。

はたはたと、蒸し暑かった空間に風がおきた。
涼しい風が土方の頬をやわらかに打った。


一瞬、土方は目をあげた、いやに派手な扇を沖田が手にしていた。
すぐ、書類に目を戻しながらも尋ねた。
「土産って、それか。なんやら娘っ子に渡すようなモノじゃねぇか・・・」

「ええ、けど。あなたに似合うと思って。ついね」

「俺に似合う? なんでだ?」

「あとで、教えてあげますよ〜!」ニコニコと笑う気配がする、沖田は土方をからかったり、へんに翻弄したりが大好きなのだ。

一瞬、あらぬことを思い浮かべた土方はババッと赤面した。

(くそぉ、、、。からかうなよ、総司のヤロー!)


そんな土方を知ってか知らずか、さやさやと涼やかな風が土方にあたる。全く、そんな素振りもない。

「暑かったでしょ。ずっと副長室に篭もりきりだというし、根つめすぎないでくださいね」

沖田の声はあくまで、静かで穏やかだった。
そして、その声は、同時に優しく甘い。


はるか年下の若者に甘やかされているようで、釈然としないのだが。実のところ、
ふと、この男に甘えたくなるのは、じぶんのほうだ・・・。

知っていたから、なにやら堪えきれなくなった。


近くにいた、沖田の袖をひき、ぐいと押し倒した。
一瞬驚いたらしい沖田も

「もう、やだなァ。おれ、今はそんなつっ、うっうぅん・・・。」

おもう様、土方は沖田の口内を蹂躙した、欲しいとおもう気持ちのままに。

土方の唾液でぬれぬれと、沖田の唇はいまや艶やかしくひかっていた。その瞳は、互いの情欲をおびて深い色あいを宿す。


ふたりの離した唇から、細い銀糸のような線がのびる。

「おめぇが、欲しい・・・」
擦れたように土方の口から強請ることばが、もれた。


沖田は愛しい情人の胸元をはだけつつ

「あァ、おれ。いつかアンタに喰いつくされそうだ」

艶めいた沖田のなじるような言葉さえ、土方を興奮させただけだった。



気だるい情事のあとの寝物語に
沖田はかすか哂いながら

「ねぇ、この柄を見て・・・。あなたを思いだしたの」

にっこり、声音に似ず沖田はうってかわって明るい笑顔で

「梅でしょう、ちょっと派手で。やすっぽかったけど。あなた、梅が好きだから」

なんの気なしに、つい買ってしまったと沖田
は無邪気に言った。


「おれ、アンタがきっとずっと好きだよ。土方さん」

すっと、土方を引き寄せると沖田は柔らかくちびるをあわせた・・・。

さきほどまでの情交がうそのように、無垢な口づけ・・・。



土方は、幸福そうに眠る若者を見ながら
扇をひらいた。

趣味は悪かった。

紅い梅だけが、染め抜かれ・・・。


(あぁ、なにやらおめぇにや、梅はにつかわしくないな。)
どこか土方の思いは濁った・・・。

お前に梅は似合わない・・・。



2006/07/10
こんばんは! 拍手やコメントありがとうございます(^^)

 A様、「情人」わかってくださって、ありがとうございます!
「逢魔が時」沖田さんが、妖艶。わー、ありがとうございます!!
毒牙w ・・・。ありがとうございます。
斉藤さんは、どうなったんでしょうね。
いがいと、おちないときもあるかもなぁっと。
でも、そうおっしゃっていただけてうれしいです。
あ、そうでしょうか、沖田さん、、。
美人、うれしいような複雑なような(すみません>< 本音はうれしいんですけど)
外見のイメージは史実の沖田さんで(^^;)
けど好きすぎるのか、ついつい・・・。
沖田さん、美人な雰囲気に。
感想、ほんとにいつもありがとうございます!!


拍手おしてくださる方、コメントくださる方。
いつも感謝しています。
本当にありがとうございました!!



2006/07/09
逢魔が時

斉藤と沖田は、ふいと呑みにでていた。


なにも、廓で遊女をあげてということではない。
二人は隊内でも親しい仲なのだ。


ふいと、呑みたいとこぼした斉藤に沖田が
「今夜、いっぱい一緒にどうです?」

という運びで

近頃、沖田のいきつけだという初老のオヤジ一人が賄う酒も出せば、つまみも美味いというこじんまりした安普請な処での二人だけの慎ましい酒宴だった。


二人とも扮装ともいえる素浪人のナリで、呑みに出た。

なるほど、うまい。
出す酒は、ほぉと斉藤をうならせた。


沖田のほうは、にこにこと美味そうに食ってばかりなのだが。
酒好きな斉藤のこと、沖田のことなど失念していたらしい。


ふいと沖田の視線らしきものが、酔いににごりつつあった斉藤を
覚醒させた。

沖田は、さも愉しげなのだ・・・。
それは何時ものこと。
したが何やら、その瞳に宿す色合いが、何かおかしい。


「なんだ、沖田さん」

「いやぁ。なんとなくですよ」

沖田、なめるように猪口をすすりながら。


「ねぇ、斉藤さん。おれ、今日は血が騒いでしかたないんです。
鎮めるのにゃ、血を見ないと・・・。」

ふいと斉藤は目を瞠った・・・。

「アンタ、人斬りに俺を誘ったのか」

「いえね、ただアナタの真似がしてみたくなっただけですよ」

不思議と、沖田の声は陶然としていた。
その瞳は夢みるように融けて妖しげに揺らめいていた。
斉藤は、ふいにかつてこの友に感じたことのない何かを感じた。


強いていえば、欲情のような何か。
唖然とした。

沖田は、今おのれを誘っている。
それは明らかであった。
ゾクリと粟立つ何かに、斉藤は知らず恐怖した。


おれは、この男をどう見ていたのだ。
知らず、沖田の不可思議と翳る眼差しに
魅入られ、つかのま斉藤は沖田を


陶然と
みつめた・・・。







2006/07/08
情人。(ツキアカリ)

私はあなたを、あなたは私を。

蜜月のような遠いあの日々・・・。
今でも


貴方は残酷に、甘くわたしをもとめるけれど。
私が貴方をもう、愛せないことを。

ほんとうに、知っているのは

アナタなのに。

それでも優しくて冷たい月の下、
私はあなたを引き寄せて

睦言のかわりに、ただあなた抱き締める。


あなたは、わたしに抱かれながら、ほんとうは。

ほんとうは・・・。



あなたは喜悦にゆがんだ、艶めかしい花のように私の腕の中で
散らされて。

それなのに。


泣いているのは、私のほう。

あなたは、しらない・・・。
恋にひずむ、絶望を。


あなたは知っては、くれない。

(おれは、あなたが欲しかった・・。けれど・・・・・、もう言ってはいけない。んだ。好きだとも、愛しているとも)


ただ、あなたをこの腕に抱いて赤い月の下で、
私は泣くの。

あなたが、愛しくて。
わたしが、可哀想で。

私は泣くの、ただいとおしいアナタ・・・。


そして貴方を忘れていく。
貴方を想う心の在処と

ひきかえに・・・。


愛してる、愛してる・・・。
ずっと。


儚い月の下、男は愛しい男を抱き寄せふかく深く

くちづけた。

ああ、私はあなたのモノだから、
永遠に。



2006/07/08
織姫。

「雨やまねェな、気い落とすんじゃねえぞ」

宗次郎はしゃがみこむようにして、しおれた色とりどりの短冊を見ている。
励ますようにまだ年若い宗次郎に言った歳三だった。


宗次郎は歳三を見上げると、にっこりと笑った。
無邪気そのものといったふうである。

「ねぇ、おれ思うんだけどさ。一年にいっぺんしか会えないのは、かわいそうだけど・・・。きっと幸せなんだ、織姫は」
大人びた口調におどろいたのは、歳三である。

「たとえ、雨でそれもなくなっちゃっても織姫は幸せだよ、きっと」


「宗次、おめぇ。願いごと書かなかったな、今年は。そういや」

「うん・・・。いいんだ、おれ」

「どうしてだ」

「歳さんだって書かないでしょ」

「おれは、大人だ。おめぇはガキだろーが」

「そこまで、子供じゃないよ。歳さん」

「ばぁーか。無理すんな」

「やだなぁ、歳さんのがもっと子供なくせに」

「おめぇは、まだガキだっ。わかったか」

うんと、うなずいた宗次郎は

「じゃ、歳さんもまだ子供でいなよ」


なんとなく歳三は言い返せなくなった。
寂しげだが、とても穏やかで柔らかい声だったからだ。


ふだんは、そんなふうではないのに、沖田はときどき、何もかもしっているという顔をして歳三を見る。
田舎でくすぶっている焦りや、強くなりたいとひたすら思う剣に対する思い、若さという名の驕りに似た何か。
己はこのままでは終われぬ。のだという、その思いは漠然としていながらも、土方の中で恐ろしいまでにそれは熱かった。

それを沖田宗次郎という少年は・・・。



ふいに、土方は思いだしたように「なぁ、なんで織姫は幸せなんだ?」

「なんでだろうね、ただそう思うんだ。それってへんかなぁ」

宗次郎の雰囲気がいきなり変わって、子供っぽい口調になった。
歳三をにこにこと、見上げながら言った。


歳三は、さきほどの宗次郎の柔らかい声を思い出しながら。
なんの気なしに、思った。

(あんがいと織姫っていうのは、こういう気性のやつなのかもな・・・。)