2006/05/29
花曇りて泣く、夜啼き鳥

人知れず、こうやって私は死んでゆくのでしょうか・・・?


もう一度、今一度だけ

貴方のぬくもりを感じたい。



夢のように薫る、あなたの残り香。


   だけど、私を永遠に忘れてください・・・。

 貴方のためだけに生きた、私など
私自身が赦されないのだから。


私のつくった、紅い紅い血の海で
私は、ただ貴方を思いだしたいだけの愚かな男です。


嗚呼、あぁ、ああ。さようなら、私の愛した貴方。

どうか、どうか貴方は貴方のままに。


目に浮かぶようです、自ら敵陣に斬り込んでゆくあなたの姿。
その姿こそ、永久の果てまでも


わたしの、あなた。

鮮烈に眩しく、そしてどこか優しい貴方でした。




  わたしは、花の薫りにむせかえり。
 斃れたのです、だから。


 もう二度と貴方には会わない、会えない。


私の逝くばしょは修羅、貴方の心はきっと天を翔るから。


  さよなら、私の愛するあなた。




2006/05/29
大根の花

「ねぇ、歳さん。大根の花って見たことある? すっごくかわ
いいんだよ、おれ大好きなの」

 はにかむような宗次郎とくゆうの、上目遣いつきの可愛らし
い笑顔に、なんとはなしに落ち着きを無くしそうになりつつ、
歳三も、平静をよそおって、

「あっ、たりめーだろうがよ。俺は百姓のでだもの。おお、そ
か、そぉーか。宗次はああいうのが好きなのか、かいらしいし
なー」


よっぽど、おめぇのが可愛いとは言えぬ歳三である。

「うん、まっすぐはっぱが伸びててさ、小さくって可愛くって
。それでうすーくあわい色がつくの、うふふ。おれ、すんごく
好きだよーーv なんかねぇ・・。おれ、さみしいようなうれ
しいよな、わけわかんない気持ちになるんだけど、なんでかな
ぁ・・・」

ふいに、歳三の心に影がさす。弟分だと。そうは、思いこもう
としていたはずなのに、なぜか沖田という少年が愛しくってな
らず、他の男でも、ましてやあたりまえに幼い娘でも、仲がよ
さげになぞ、されようものなら、胸が焼ける気がしていた。


あぁ、こいつ花に誰かを重ねてやがる・・・。恋にうといはず
もない年上の男にはわからぬはずもない。


だが、しょせんは兄貴分だと己も思っている、少年のほうもそうと思ってしかいないであろう。

だがそんな宗次郎が、やはり余計に可愛い、と思う歳三だった。


「うふふ、これ変かもしれないんだけど。なんとなく歳さん思
いだしちゃった、あの花・・・。ぜんぜん、ちがうのにね〜。
って、歳さんがたくあん大好きだからかなぁ・・・?」

どきりと、させられた上に突き落とされるかのような言葉で、
あった、泣きたいのやら笑いたいのやら。
可愛すぎて、なにも言えぬ自分が歳三には・・・。である。

ところが


「あっ、違うや。わかったよ、歳さんってば意地っ張りなとこ
ろは、まっすぐすぎるはっぱみたいだし・・・。えーと」

 続きは、なんなんだー? なにやらへんに鼓動がはやくなる
歳三であった。


「えへへ、なんかすっごく凛として見えたよ。・・・。///
なんか恥ずかしいけど、わかんないけど、歳さんって。ときど
き、あんなかなぁ〜? うっすら色づいてるみたいな、普段は
すっごくかっこいいのに。うん、わかったぁ。だから、似てる
気したんだねーー!! うふっ、うん、好きだなぁ」

一人で宗次郎は納得したらしい、うんうんとうなずいている。


歳三は、その横で真っ赤になって俯いていた。

もちろん、少年は自分の言った言葉の深い意味になぞ気がつか
ない、ひたすらうんうん、と頷くばかりだった。

なんとも、すれ違う若い二人である。



歳三に春がくるのは、いつのことやら、神のみぞ知るところ。



2006/05/29
軍議

ほとほと、疲れ果てているという顔を珍しくも隠せずにいる榎本であった。
二人の男が総裁室に双方呼ばれた、どちらも榎本にとっては信頼する陸の要、話をしておきたいと呼んだ。
ふだんなら、酒宴の席でというのが・・・。ごく、あたりまえなことなのかもしれなかったが、なかなかそうでは応じない男がいた、それに困ったことに、ますます酒の味によって気が立つらしく、ほとほと、何にもならない。ということで、土方と大鳥は総裁に職務として呼ばれたのだった。


したが、軍議とは名ばかり、

「・・・・・・。土方君には、土方君のお考えが。あるでしょうね・・・。」

「ふんっ、何もいうことはありませんなオレには」

こちらも、そうぼそりと呟いたきり、押し黙ってしまった。


二人が二人して、なぜこうも頑ななのか・・・。

榎本個人としては、二人とも話もすすめば、気もよい相手。そして、何より信頼できる将たちである。

五稜郭軍の中での二人の人望もともに、篤い。
土方の奇抜で鮮やかな戦闘や、温かみのある人柄に惚れこむ部下たちも多い。


そして大鳥も見識がひろく、こちらも部下思いで穏やかなところのある男だった。部下たちにひろく、慕われていた。



その二人がである・・・。
ウマが合わないのか、いつも榎本の前ではこの態度なのだ。

さすが、部下たちの前ではお互いをたてるのが筋と思っている二人らしいから、榎本の前でだけ、なのだった。



信頼されている証拠でもあろうが、なんとかならないのか。
というのが、正直なところである。


自然、出された茶もカステラも誰も口をつけない。


ヤケクソのような気持ちに、なった榎本のみがむしゃむしゃと菓子をのみこみ、ゴクゴクと冷えた紅茶を飲み干した。
洒落ものらしからぬ、仕草であった。


それも、気がつかないのか。
大鳥は土方を眺めやり続け(恐らく、本心はにらみつけているのだろう) 土方は土方でそっぽを向き続けている。


榎本は深い溜息を吐いた。

「お二人の意見を、それぞれからではなく。たまには皆で話あいたいと思ったのですが」

 はっと、二人が榎本を見てばつの悪い顔をする。

「総裁、いつもお伝えしておるのが私の考えです」

「榎本さん、オレはこの前言ったとおり、動く。承知だったはずだよなぁ?」


異口同音とは、このことだ。
どこか疲れた頭で、榎本は思っていた。

ほんとうは、この二人、気があいすぎるのじゃないのかと・・・。
ただ、もうそれ以上は考えるのも虚しいような気がした榎本である。

「わかりました、お二人の意の副うように。よろしくお願いします。お呼立てして時間をとらせた。各自、お疲れでしょう。今夜は休んでください」



榎本は二人が去ったあと、どっと疲れこみ椅子にもたれこんだ。
ああ、酒より茶が欲しい気分だ。
しかし、小者を呼ぶのすら面倒だった。

しかたなく、所蔵のワインを取り出してグラスに注いだ。



2006/05/25
悲しいな

おれって、相当な莫迦かもって。
思ったね、今度ばかりは。


斉藤さんがね、いやぁ、あのハジメちゃんがですよ。
びっくりした〜!!!

いえいえいえ。まさかねー、とか目の錯覚、あ、ちがった耳の錯覚かとさんざんくり返してみたんだけど・・・。



「っ、さ いとぉ・・・。あううっ。はぁ ん。あっ」
明らかに聞こえちゃったの、どこだと思う。
あー、びっくりした。
おまけに、なんとなく衣の乱れるっていうの、はぁ、こういうのが衣擦れって、いうのか、なんて。思ったのもつかのま。


ここって、副長室・・・。の前なんですけど!!


てか、びっくりして逃げちゃったけど、あの声って紛れもなく。よっく知ってる人のような。

「ひっじかたさん、遊んで〜v」

なんて、飛び込んでたら。いまごろ殺されてたのかも。えっ、ウソ!! いくらなんでもねぇ、てれやさんの土方さんだからって殺したりってないよ・・・、ね?

斉藤は、おれの親友だし。

でも水くさいなぁ、二人とも。
教えてくれたっていいのに。
ぜんぜん、気がつかなかった。


おれ、悲しいよ。
土方さんは、大切な兄みたいな人だと思ってたし、斉藤は一番のトモダチでしょ?
二人とも、おれにくらい教えてくれてたってねぇ。

いくらなんでも、からかったりしないのに・・・。



信用ないのかなぁ、かなしいな。



2006/05/25
サウダージ

忘れてしまいたいと、心が言うのなら。
それはほんとう、のこと。



私が貴方を
誰よりも大切だった日々さえ、いまはもう、どうでもいいような気がします。

ただ時折、胸の奥に何かを置いてきたような。
さびしいような、なつかしいような。


もうすぐ、夏が来ますね。

そうしたら、私は思いだせるのでしょうか?



貴方と過ごして、いちばん幸福と思えた。あの頃を。



貴方は今でも、私が必要だと言い、好きだと言い。
抱きしめてくれは、するけれど。

私の心は、貴方を本当に
今も求めているのでしょうか?

あぁ、あなたの身体から花のように甘い薫りがします。
なのに、少しも私の心は粟立つこともなく、貴方に求められるまま、貴方を引き寄せる。

いま、私は貴方の目には、どう映っているのでしょう?


夏の気配のせいでしょうか? ふと貴方の心が気になりました。


貴方が、変わったのでしょうか?

それとも、私が変わったのでしょうか?



ずっと憧れだった人、夏の力強さそのままに。
幼いころ、惹かれ焦がれた、貴方。


ただ、貴方は夏ではなかった。
花のよう、いつから私はそう思い。
いつから、貴方は私を・・・。


あなたは、きっとこの先いくつ年を重ねても美しいひと。

私は、すこしづつ、すこしづつ。
貴方を忘れていきます。


ただ、夏の気配だけを残して・・・・・・。



2006/05/19
少年。肆

「まってよ!!」

いくら大きな声で叫んだって、振り返ってくれない。
ねえ、歳さん、なんで?

なんか悲しくなってきちゃって、おれは涙ぐみそうになった。

そぉしてたら、振り返ってくれたんだ、やっと。
安心して、おれうれしくなっちゃって、思わずにっこりしたら。


歳さんのが、なんかすっごく奇妙な顔してたんだ。
悲しそうって、言うのかな。
なのに、笑ってて。

なぜか、すごくおれん中のどっかが落ち着かない感じで
ざわざわする。


なんで、そんな顔してるの。
それで思わず、近寄ってしがみつくみたいに

抱きついた。


そうしたら、ぎゅってすごく強く抱き返されたんだ一瞬。
でも・・・。すぐに顔をのぞきこまれて

「どうしたんだ? 宗次、なんだ。おめぇ、泣きそうなツラして笑ってんじゃねぇ。さ、行くぞ。今日は負けねぇからな」

って、いつもの歳さんの口調で言ってくれたんだ。
さっき、そんな顔してたの歳さんのくせに・・・。






だけど、むしょうに淋しいような哀しいような気が、それから歳さんを見るたび、するようになった。

これって、なんなのかなぁ・・・。


歳さん、おれ。
あなたが、大好き。


だから、笑っていてよ。
だから、いつものあなたでいてよ。



2006/05/19
少年。参

おれは、歳さんのいきなりさに。なんか戸惑って立ち止まって
しまった。

いつもなら

「もうおれのが、強いんだからねー」くらいのこと言って

「かわいくねー、ガキが」とかって歳さんが笑ってくれてそう
なんだけど。


なんか、歳さん雰囲気ちがうんだ。
振り向きもしないで、ずんずん行っちゃうし・・・。

おれ、何かわるいことしたの、待ってよ。


「まって、待ってよ。歳さん」

歳さんの振り返らない肩が、びくりと揺れた。



2006/05/19
少年。弐

なんとなくだけど、今日の歳さんようすがヘン。
自分からさそったくせに。

「あー、あのなぁ」なんてあさっての方向むいて、なんか言いたげなんだよね。

「道場いくんでしょ? はやく行こうよ」って、いつもどうりに言ったら

「ちっ、ちげぇよ」

「えっ!」おどろいて大きな声だしちゃったもんだから。

歳さんも慌てたらしくって。

「いや、そのなぁ。ちがわねぇ、ちがわねぇから」

とかって、言ってくれた。


けど、やっぱり何かへん。
何か、おれに言いたいことあるのかなぁ・・・。


こころなしか、 なんか元気ないよ。ねぇ、だいじょうぶ?


せっかく、歳さんと打ち合えると楽しみにしてたおれの気持ちもシュンとしてくる。

そんな、おれを見て何か思ったのか。

「宗次、稽古つけてやるぜ」

と、歳さんはさっさと歩きだしてしまった。



2006/05/19
少年。壱

「おいっ、宗次! オレとつきあえ!!」

??? 相変わらず、いきなりな人だなぁ。
ま、いいけどねー。


最近じゃ、かならず負けるからって道場じゃ遊んでくれないのに。

「いいよー、歳さん。じゃあ、行こっか?」

「おうよっ」やけに嬉しそうに歳さんは上機嫌だ、やっぱり嫌いじゃないなァこの人。はっきりしててわかりやすいし、なにせ、おれには優しいもんね。

こないだもお菓子買ってきてくれたし、おもちゃよく作ってくれるの・・・。手先が器用なんだなぁ、って感心しちゃう。
このまえも、ちょいいちょいと竹とんぼとか作ってくれたり。
おれは、歳さん大好き、うん。
すごーく好き。

「底のわからないところのあるけっこうな人だよ。土方君は」なんて山南さんは言うけど、おれにとっては、誰より優しくって。

それに山南さんも、好きだけど時々むずかしいことばっかりで、とんとわかんない時がある。
ただ、やさしい人だなって、おれとしては信頼してるから。
なんで、歳さんをそんなふうに言うんだろ? って思った。仲わるくないみたいなのにね。
オトナって、わかんないなあ・・・。

って、ぼぉーっとしてたら
「宗次っ!!」

「あっ、ごめんなさい。考えことしちゃってた」


歳さんの戦法って、けっこう目茶苦茶だからワクワクするなー。



2006/05/19
「教えてよ」

あぁぁ〜、ふーん。
つけらてるなァ、えとー。うへー、以外と多い。
どうしよっかな?


って、逃げたら切腹かしらん。
「士道不覚悟」特例は、認めん。とかって、あのひと、言いそ
う・・・。泣けます。本気でね。


なんでー、どうして今日に限って・・・。
あぁ、泣きそうよ、おれ。
だって、非番なのよー。・・・。
あんまりじゃない? 二人きりなんて、ここんとこぜんぜん無
くってさあ、たまにはいいじゃないの、ね。
あーあ、だれに言ってるんでしょ、おれ。

ま、良いけどねー。

「新撰組、一番隊組長沖田総司。お命惜しくなくば、お相手い
たします」

あ、わらわら出てくる・・・。
名乗ったのに、おれって、人気モノだこと。

ふぅん案外強いじゃないの。
けど、惜しいな。剣がまっすぐすぎる。
こんなじゃ・・・。
ひと〜り、ふたぁり、三人、ふーん逃げないの?
なら、仕方ないよねえ。四、五、ろぉ・・・。
あーあ、あぁヒサン。


あなたと二人きりの時だけは、昔のままのおれでいたいのに。
血の臭いがするね、きっともうしみ込んで、とれやしないね。

(ねぇ、歳さん。おれたちなんで、こんなになっちゃったの?)
 
  ・・・・・ねえ、教えてよ。