2006/07/30
逢う魔が時。(二)

「・・・。」

何です? 普段のような軽やかさで沖田は斎藤に笑いかけた。
無邪気さを残しつつ、その瞳だけは獲物を追いつめる猫のように妖しく光った。

かのように斎藤には思えた。

瞳は潤むように、声色はおそろしいまでに禍々しい・・・。
それでいて染入るようにひたすら柔らかい。


じっとりと斎藤は知らず、見入っていた沖田の視線から逃れようと斎藤の心はもがいた。

しかし、沖田は逃がすまいというように。


斎藤をじっくりと見つめていた。

くすくすと沖田は笑う。
「どうしたんです? 斎藤さん。酒に酔いましたか。あなたらしくないナァ・・・。」

それとも・・・。


空耳かと思うほど、沖田の囁きはひくい。


「ねえ、斎藤さん。おれねぇ・・・。」

「お、沖田さん・・・。」

斎藤の声は知らずかすれた。


沖田はすべて、わかったというふうに
ニヤリと哂った。


ほんとうにこれが、今のいままで知っていた沖田総司という男なのか・・・。

その笑顔は長年しっていたはずの沖田とは違いすぎた。


口元には変わらぬ無邪気さ、なのにこの得体の知れぬ男は。
誰なのか・・・。

あぁ、魅入られた。


そんな自覚さえ、斎藤には出来なかった。

ただ、
ひたすら伝う冷汗と・・・。


恐怖、そしてふいに鮮やかな血の色が眼裏に散った。


「・・・。」

アンタ、俺をどうする気だ。

言葉にならぬ思いが、鮮烈に斎藤を蝕んだ。


「斎藤さん、ねぇ。今夜は俺といて。」

いいでしょう・・・。


やわらかく甘やかな声が、しずかに斎藤の耳元を掠めた・・・。



2006/07/30
こんばんは、拍手やメッセージありがとうございます!!

※M様、あたたかいお言葉ありがとうございます!!
伊庭沖、なぜか大好きらしく書いちゃうんで(?)
それに、そんなふうにおっしゃっていただいちゃうなんて。
もったいのうございます(感涙)
気さくで、やわらかくて、明るくて、朗らかな、それでいて切ない…。すべて伊庭さんのイメージでございます。拙い私の書くものから読み取っていただけるなんてvvv
感激です。
私はMさまの書かれる伊庭さんも好きですv
やさしくて、穏やかでちょっと報われない華やかな美しい伊庭さん♪ 素敵です。

すっごく楽しみにしております!!
うーっ、沖田さんすごすぎですvvv
M様、たぶん妄想じゃなくて煩悩の塊に私めなりましたw
うふふ、ほんとにいろんなシーンが楽しみすぎます。
あ、すみません。ついつい妄想をば(汗)

今日はほんとうにありがとうございました!
沖土もがんばりますね(^^)



※あ、ありがとうございます。伊庭沖、どちらも大好きなんて過分なお言葉です。
今、あかるいほうの設定で書きかけておりますが。なにぶん、ネクラでして、私。
どうもしめっぽいなぁと、どちらもといっていただけて。
ほんとうに嬉しかったです!!
有り難うございます☆


拍手やコメントありがとうございます!!
とってもうれしかったです!
これからも頑張りますねー!!



2006/07/28
愛執。

ふらりとまるで幽鬼のように色を無くした沖田があらわれた・・・。

伊庭は思わず、その唇を噛んだ。
裏目にでた。おそらく自分のしたことが。
・・・。

よかれと思って賭けにでたのが。おそらく・・・。



こんな沖田は見たことがなかった・・・。

瞳はうつろ、いつもは愛嬌のある顔に見えるのに今夜はひどく痛々しかった。

「宗さん、遅かったね」
だが、平静を装って伊庭は微笑む。


途端、ぶわりと沖田の瞳に涙が滲んだ。

「かあいそうだった、、、。ねぇ、若旦那。あの人、泣いていた。おれ・・・。」

沖田は伊庭の言葉など聞こえぬかのようにひたすら。

「あぁ、おれ。おれ・・・。」

ただ、その瞳から涙を流し伊庭にうったえた。


抱き寄せたくとも出来なかった。
あまりに、沖田がせつなげに声をふるわし静かに泣くので。


だが沖田の首筋にはっきり見えた痕に伊庭の心は凍った。

くっきりと、残る痕。


思わず、沖田を引き寄せかき抱いた。

沖田はまだ、うわごとのように繰り返す。


あぁ、あの人がと。

伊庭の心も暗い闇に堕ちた。


沖田は伊庭の腕の中で、ずっと静かに泣いていた。



2006/07/28
こんばんは(^^)

※M様、ありがとうございますvvv
沖土が大好きなんで、そうおっしゃっていただけてほんとうにありがたいです。

なぜか沖田受けのが多くなったような(今、伊庭沖書いてますw けど、どうも明るいほうも、伊庭さんが>< 身ひいちゃいそうで。えっ! って書いてる私が思ってます。)

なんで、ぜんぜんすすみません(汗)><

って、沖土好きなら。すなおに沖土にしろよって感じですよね。


M様、ついつい関係ないことを。沖土が好きって一言でよかったのに。お言葉、ほんとうにありがとうございました。

M様、お体大切になさってくださいね!


※拍手おしてくださる方、お言葉くださる方。
いつも本当に感謝しております。

拙いですが、読んでくださってありがとうございます!!
では〜**



2006/07/26
やさしい腕。

沖田はくすりと笑って、肩まで流れた土方の髪を払った。

「あー、見事にほどけちゃいましたねぇ」

こんな時になんだと土方が身構える間もなく、沖田は土方をやさしく引き寄せるようにして抱き込んだ。

「あぁ、血の香りがする。困ったなァ、ほんとに困ったよ。土方さん・・・。」


私を、あんまり心配させないで。

その小さな声はふるえるようで、土方はひととき全てを忘れた。
何もかもが、消え去り世界がぐらついた気がした。


のどに何かつまったかのように声が出せない。

「血に染まった貴方は貴方らしいけれど、何の為に私がいるの」


沖田の腕の中で土方は硬直した。
暗さも悲しみもない声色。

透明に澄んだ泉のように、それは清い。

「そ、総司。俺は・・・。」

何というふうに沖田は土方を抱く腕に柔らかく力を込めた。

「俺は血に染まりたい、染まらなきゃならねぇんだ」


知ってるよ、けどおれが嫌なんです。
はじめて沖田の声は寂しさをおびた。

ただ、その腕は優しいままだった。



2006/07/26
疑惑と不審とため息と…。

「金がない。困った・・・。うーむ。フム」

ぶつぶつと、大鳥は繰り返していた。
本多は側でそっとため息をついた。


新撰組のやつらなどに、また陰口を叩かれるようなことをこの気のいい上司は考えているに違いない。

はっきり言って、大鳥が彼らにどうこう言われるのは不当である・・・、と思う本多であった。


しかもだ、大鳥先生があの土方陸軍奉行並(微妙に、並を無意識に強調しながら)に懸想しているなどという噂を、立てやがって・・・。
そんなことは、絶対に無い。
無いに決まっている。


この本多幸七郎や伝習隊は、大鳥先生を信じております。


ふっと、その土方が現れた。

「大鳥さん、出撃するにあたって。アンタに言い忘れた。」

土方は大鳥に近づくと内緒話するように、何か言ったようだった。


ぱっと大鳥は笑った、めったにないような無邪気な笑顔で(いつも笑って戦場を引き上げてくる大鳥である、だがどうも違う・・・。)


にやりと土方も笑った、その笑顔もこれまた見慣れたものとは(部下達の前での土方の笑顔は穏やかだ、だが・・・。これは。)

あまりの華やかさに、土方をよく思っていないはずの本多すら見惚れた。


・・・。
大鳥先生、まさかですよね。

本多幸七郎は心の中が、ざわざわしたが。


見なかったことにして、今の一幕を忘れようと決意した。


(はァ、信じてますからね。大鳥先生・・・。)

ただ、あながち新撰組が大鳥に対して根も葉もない噂を立てたというのは、違うような気がしてしまった本多だった。
そして知らず深い溜め息を吐いてしまう。


大鳥先生・・・。



2006/07/25
弱音。

「沖田さん、何だ。こんなところに人を呼び出して。穏やかじゃないな・・。」

日も落ちて、薄暗い川原で沖田は斎藤を待っていた。

ぺたりと沖田の横に座って
斎藤は笑った。


「何があった? 沖田さん」

沖田、はじめて斎藤に気付いたというふうに。
じっと斎藤を見る。


含み笑うようにしながら

「ねぇ、斎藤さん。おれ、もうイヤになっちゃった・・・。」

と、
この陽気な若者に似つかわしくないような
弱った声で言ってきた。


「そうか・・・。」


斎藤の声は優しいだけだった、他になんの感情もない。

沖田は斎藤を見る。

「ねえ、おれが嫌いになった・・・。」



斎藤は笑った、厭になったと言いつつ剣を捨てることなど沖田には出来ないだろう・・・。
それでも。

「いや、アンタはアンタだ」

と、答えた。


本当は、ほんとうは・・・。

もっと、違う言葉があった気もしたが。


斎藤には、さらさらと流れる夏の川音に全てが流れ、消えたような気がした。



2006/07/24
秘密。

「オイラさぁ、あんま考えずにいたのが。いかったのさァ。ホント、なんでこうなっちまったのかネ。ねえ、宗さん」

伊庭はしきりと、その美しい顔に指をやりほつれをはらうでなし、頬あたりを掻いていた。
いささか、らしくないサマである。


沖田はいまさら、何を言うのかという気にもなったが。
あんまりにも、伊庭が困り顔なので思わず笑ってしまった。

「しかたありませんよ、御曹司。悪いのはみーんなおれ。それでいいじゃありませんか。」

「よくないよ、そりゃ。だいたい信じられないことさね。どうして宗さんは、笑っておられる」



「歳さんに知られるのが、怖いですか・・・。」

「いんや、アンタにますます嫌われたのがちょっぴりね」

沖田は驚いた。
なぜか伊庭を嫌う理由は無くなったような気がしていたから。


「て、何考えたんです」

沖田の声音はひどく優しくなった。


「何って、らしくないことサネ。ふふっ、宗さんには負けたよ。とんだ道化だねぇ」

「やだなァ、伊庭さん。おれ、いくらなんでもそこまでじゃないですよ」

伊庭は苦笑うように

「どうやら、オイラ。思った以上に宗さんが好きだったんだよ・・・。」

「・・・。」




「お笑い種サネ、ほんと始末に終えないもんだね。こういうのは。」

「若旦那、おれもアンタが嫌いじゃなかった。けど、おれは・・・。」

沖田の声は寂しげになった。


だが伊庭はもっとさみしいような顔で、いつもの柔和な笑顔を作り笑った。
いいのだ、というふうに。

一度っきりの二人の密か事は
こうして忘れられた。





2006/07/23
こんばんはー☆

拍手やコメントありがとうございます!!

※・・・、ですね。いつもながらに想像におまかせします。と、も。
思ったんですが、一応、沖土メインなので(^^;)
斉藤さんは、女だと思ってるみたいですがw ツコッミ、ありがとうございました!! うれしかったです。


※拍手くださる方、メッセージくださる方。
いつも感謝しております!

ありがとうございました♪



2006/07/22
名残り。

もろ肌脱いだ沖田の肩のあたり鬱血のあとと歯ののこしたのであろう痕を見た・・・。

思わずじっと見ていたらしい。


ぱっと沖田の顔面は真っ赤である。

なにやら微笑ましく感じたが、からかってやるのも礼儀かと。

「沖田さん、ソレは」

我ながら、にやついているらしい。


「い、いやだなァ。む、虫にくわれて」

「ほぉ、そうか。人のような虫だな。」


「もうわかってるくせに、一さんってば。むっつりスケベ」

くくく、と斉藤一は咽の奥で笑った。

「すまんな、アンタでも人並みにと思うとな。なんか可愛らしい気がしてな。」

「もう、いやだなァ。アナタにそんなこと言われたちゃうなんてー。 これでも、わたし。ねえ・・・。あ・・」

「何だ、言いかけてやめるな」

「あ、いえいえいえ。たいしたこと無いですから。オホホ。斉藤せんせにかないっこあるわけございませんもの。ほほ。」

眉をしかめて

「さすがに気持ちわるいな。やめてくれ」

「つれないどすなぁ、うちとせんせの仲じゃあ、ありません?」

「沖田っ!!」


「あっはは、私をからかおうなんて。真面目カタブツのハジメちゃんには、無理ですよ〜〜。」


「そうだな、だが」それはなんだという風に
目で沖田の肌を指す。


「あぁ、これですか。ふふっ、そうですよ。私の大切な人がね・・・。」

「ずいぶん、タチがわるそうだな。」
男の背に痕をのこすなど。


「うふふ、嬉しいんです。綺麗デショ?」

赤黒い鬱血のあとは、お世辞にも美しくはなかった。
だが沖田はうっとり笑ったのだった、さも幸福そうに。


なので、斉藤はよいのだ。と思った。
沖田が幸福そうに笑うのを見るのは、なぜか斉藤を安心させてくれた。

ただそれだけだった。